意見を言えない「わきまえる文化」の中で

「わきまえない女」の烙印を押され、悩んだことがあるという。

「私が20代の頃は、映画の現場などでは、男性監督に自分の意見を伝えることさえも憚られる空気がありました。映画の世界は男社会ですし、監督のプランが絶対です。そこに水を差すようなことはすべきではない、というような。何度か『女性の心情としてはこう思うんです』と伝えても、そんな一俳優の意見など簡単に弾かれてしまう。当時は私も未熟だったので、ただ思いの丈を伝えることしかできずに、お互いにわだかまりを抱えたまま撮影が終わる、なんていうことはいつものこと(苦笑)。あまりにどうしていいかわからず、仕事上で男性をスムーズに説得するテクニックを伝授するプライベートレッスンを受けたこともあります(笑)」

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レッスン中、女性の先生から、「仕事上で男性に受け入れてもらうためには、とにかく最初に相手を褒めることが肝要です」と教わった。
「胸元で両手を合わせるジェスチャーと共に、『こんなの初めてです!』とか『〇〇さんにしかできないですよね』と最初に相手を褒めちぎってから、さりげなく、『ただ、ここはこういうふうにしたらどうでしょうか』と自分の意見を挟み込む。あくまでにこやかに、自分が『ここはちょっと』と思うことも、『嫌い』とか『だめ』という言葉は使わず、とにかく問題だと感じていることを陽転させることが大事だということでした」

そこまでしないと、男性社会で自分の意見や感覚を通しながら生き残っていくことはできないのか、と暗澹たる気持ちになった。
好きな仕事をする上で、抱え込んでしまった厄介な“我”。“我”があるからこその自分という誇りもありつつ、どこかに「“我”がなかったらどんなにラクだろう」という思いも頭を過った。

Photo by AKINORI ITO(aosora)
中谷美紀(なかたに・みき)
1976年1月12日生まれ。東京都出身。主な出演作に、「ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer」(00/堤幸彦監督)「電車男」(05/村上正典監督)「源氏物語 千年の謎」(11/鶴橋康夫監督)「ひまわりと子犬の7日間」(13/平松恵美子監督)「清洲会議」(13/三谷幸喜監督)「乾き。」(14/中島哲也監督)「繕い裁つ人」(15/三島有紀子監督)「FOUJITA」(15/小栗康平監督)などがある。著書に『オーストリア滞在記』(幻冬舎文庫)など。Instagram:@ mikinakatanioffiziell