「腕全体に発疹が出ているんです」

お昼を過ぎたあたりで、スマホが鳴った。デイケアからである。夫にと書き添えてあったのだが、緊急時の連絡はきまって私に来るのだ。ため息が出る。

「昼食を食べたあと、念のために袖をまくったら、腕全体に発疹が出ているんです。朝、確認したときには、メモのとおり虫刺されみたいな発疹だけだったのですが……。帯状疱疹かもしれないので、病院にお連れいただけませんか?」

腕にできた点は、帯状疱疹の始まりだったのか! しかし、その日じゅうに仕上げなければいけない書類がある。夫に連絡してみたが、「えー、俺出られないよー」と予想どおりの反応。当てにした自分がバカだった。仕方がない。上司に状況を話して対応を頼み、義母を迎えに行くことにした。

デイケアに迎えに行き、そこからタクシーを呼んでかかりつけの病院に向かった。ブラウスを脱がせると、朝は白かった右腕の肌が毒々しい赤紫の発疹に覆われている。少しでもなにかに触れると、激痛が走るらしい。義母は痛みに弱いので、普段怪我をしたりすれば大声で痛い痛いと叫ぶのが常なのだが、声を出すのも辛いらしく、肩で息をしてフーフー言うばかりだ。

帯状疱疹には、その場で劇的に治る薬はまだない。抗ウイルス薬を服用し、痛み止めを使って収まるまで待つしかないのだ。義母は我慢できるだろうか。その日から、新たな薬の管理と、痛がる義母をなだめる仕事が増えた。

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治りかけの跡が原因で親子げんかが勃発

帯状疱疹の表面の発疹は、少しずつかさぶたになり、炎症が引いていった。最後は、黒ずんだ紫のあざのようになった。

ところが、このあたりから面倒なことが起きた。息子(夫)に食ってかかるようになったのだ。発疹は治っていったが、痛みはそうそう簡単には消えなかった。そのしつこい痛みと、あざのような発疹の跡から、暴力を振るわれたと思い込んだのだ。私がいくら「帯状疱疹になって、今は治りかけなんですよ」と説明しても、聞く耳を持たなかった。

「あの子は私のことが憎いんだね。腕をつかんだりなぐったりしたんだよ。だからほら、こんなふうにあざまでできて……本当にひどい子だよ!」

夫のほうも、相手が認知症なのだからスルーしておけばいいのに、売り言葉に買い言葉。怒鳴り声で応戦する。そんなことで怒っても、相手には通じない。それが夫には理解出来ないらしかった。

普段の義母の世話だけでもたいへんなのに、いちいち親子げんかが始まるのでうんざりした。どうすれば義母の怒りを和らげられるだろうか。