社会的、文化的に形成された、ジェンダーという概念。心理的な自己認識や置かれた環境によって一人ひとりが抱く問題意識は違います。今回は、「ジェンダーと物語」というテーマを軸に、漫画家・作家の小林エリカさんと作家のパク・ソルメさんに語り合ってもらいました。

「自分は被害者とは違う」。
そう思いたい気持ちがどこかにある。─パク

誰もが被害者にも加害者にもなりうる。
人間の両面性を描いていきたい。─小林

近年、注目が集まっている韓国フェミニズム文学。パク・ソルメさんも、そのムーブメントを牽引する作家のひとりだ。今年4月、日本で初めてとなる翻訳版『もう死んでいる十二人の女たちと』について熱のこもった書評を発表したのが小林エリカさん。長年、歴史に記されなかった女性たちの人生を書き留めてきた小林さんと、自身の現在地から真摯な眼差しで女性の生き方を描こうとするパクさん。日本と韓国、フェミニズム意識が高まる両国の現状も含め、今考えていることとは?

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小林 『もう死んでいる十二人の女たちと』は8篇の短編集ですが、女性たちが突然の暴力に見舞われる話や、過去に殺害された女たちがすでに死んでいる犯人の男をもう一度殺そうとする物語など、理不尽に降りかかる不幸や事件を扱った作品も収録されています。

パク カラオケ店で女性が不条理な暴力を受ける『そのとき俺が何て言ったか』や連続殺人鬼と被害者の女性を描いた表題作『もう死んでいる十二人の女たちと』は、実際に起きた事件をモチーフにしているのではないかと聞かれることが多いのですが、どの作品も実話をベースにしてはいないんです。

小林 私も読みながら江南駅殺人事件(2016年5月、ソウル・江南駅付近のカラオケ店のトイレで23歳の女性が面識のない男に突然殺害された事件。「女性を狙った」という犯人の証言から“女性嫌悪”による事件だと韓国社会の注目を集めた)のことが頭をよぎりました。

パク 何か恐怖や危険を感じる状況に陥ったとき、無意識に自分を安心させる物語を作ってしまうことってないですか? たとえば暗い道をひとり歩いて家に帰った夜、ベッドに入るとふとそのとき感じた恐ろしさを思い出してしまう。同じような状況で理不尽な暴力に見舞われるシーン、映画や小説、日々のニュースからインプットされた場面が浮かんで眠れない。

小林 ありますね。

パク そんなとき、少なくとも私は無意識に自分が安心できる物語を作り上げているんです。あの夜道には自分以外にも人が歩いていたから大丈夫だったんだとか、何か自分が襲われなかった理由を付け足して「自分は救われた」と思う。そうすると安心して眠りにつけるんです。それは「自分は違う、自分は大丈夫」と思いたがる姿なのかもしれませんが、とにかくそういうことが真っ先に思い浮かぶのは事実です。

小林 自分も被害者になりうるという現実からどうにかして免れたい。それは韓国だけでなく日本や世界中の女性が感じることかもしれません。

パク 『もう死んでいる十二人の女たちと』は、そういう部分を膨らませて極端な形で描いた物語です。殺人犯を殺してしまえば理不尽な殺人はもう起きないでしょっていう。