日頃何気なく接しているエンターテインメントが、考え方に影響を与えることもあります。影響力の大きいエンタメ作品は、時代ごとにジェンダー観をどう反映してきたのでしょうか。

今回、注目するのは「ドラマ」。テレビドラマはその時代を映す鏡であり、そこに映し出されたものがまた、時代の空気感を作り出してきました。テレビリサーチャーであり宗教学の博士号を持つ高橋直子さんと、テレビ番組に関する執筆を多数手がけるライターの岩根彰子さんの対談から、ドラマにおける女性の恋愛、仕事、結婚観の描かれ方と、その変遷をたどります。

お話を伺ったのは……
高橋直子 たかはし・なおこ
テレビ番組制作リサーチャー、國學院大學大学院文学研究科でメディアと宗教をテーマに研究し、博士課程後期修了。専攻は宗教学。著書に『テレビリサーチャーという仕事』(青弓社)などがある。

岩根彰子 いわね・しょうこ
フリーランスライター。編集プロダクション勤務後、フリーランスのライター、編集者として活動。「GALAC」(NPO放送批評懇談会)などでテレビ番組に関するインタビューやレビューなどを手掛ける。

ドラマには、その時代の女性たちの憧れと、
リアルな現実が描かれている。

高橋 女性誌の結婚特集を調査したことがあるのですが、女性の結婚観が大きく変わるのが80年代末から90年代にかけてなんです。結婚適齢期を意識させる言葉として、長年言われてきたのが23歳コース。いわゆる幸せな結婚生活をライフイベントから逆算すると、23歳で結婚するのが一番良いとされたモデルで、その呪縛が解けるのが80年代の後半。だからドラマにおいて女性の表象、結婚、ジェンダーの描き方が大きく変わってくるのが90年代くらいからだと思います。

岩根 その呪縛が解けたのにはどんな社会的背景があったんですか?

高橋 80年代になると、結婚に希望が持てず、キャリアを志向する女性たちが増加する一方、結婚に積極的な女性たちにはエリート、ブランド志向が現れました。結婚相手の条件は「3高」(高学歴・高収入・高身長)となって、男性の結婚難と女性の晩婚化が進んで23歳コースの規範が消失しました。そしてバルブ崩壊。「3高」神話も崩れます。この頃から男女共に結婚にパートナーシップを求めるようになります。

従来の夫妻の関係・役割を否定する傾向が現れたのは、90年代に入ってからなのです。実社会では自立するキャリアウーマンが活躍しはじめているけれど、イコール幸せという図式にはなかなかなっていかない。大ヒットした『東京ラブストーリー』(1991年)も結局、結婚した方が勝ち、みたいな描かれ方をしている。放送時にも指摘されていましたが、その図式からなかなか脱却できなかった。1996年放送の『ロングバケーション』でも、最終的に山口智子さん演じる南は、木村拓哉さん演じる年下の瀬名と結婚する体で終わっていて、そこがちょっとガッカリ感を残すんですよね。

岩根 『東京ラブストーリー』もロンバケも、どんなに自由な恋愛を描いていても、やっぱりゴールは結婚という結末が多い。一方、1994年放送の『29歳のクリスマス』では、最終的に結婚を選ばないという結末が描かれる。

高橋 そこが同世代や少し下の世代の女性たちの支持を集め、少しずつドラマにおける結婚観は変わり始めましたね。

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岩根 少し遡りますが、浅野温子さん、浅野ゆう子さんW主演の『抱きしめたい!』(1988年)はすごく新しかった。浅野温子さん演じる29歳で独身スタイリストの麻子と、浅野ゆう子さん演じる専業主婦の夏子。2人の女の友情物語。麻子のアシスタント役の本木雅弘さんが彼女に憧れる若い男の子というポジションで、それまで描かれがちだった、若い女の子のアシスタントが男性上司に憧れる、という構図が逆転していたり、夫役の岩城滉一さんがご飯を作って子どもの面倒をみるといった、ジェンダーロールを逆転してみせる描写が自然にあり、今見ても新鮮に楽しめる。

高橋 一方最近のドラマで結婚を題材にしたものでいうと、『逃げるは恥だが役に立つ』(2016年)は積極的にパートナーシップを語った作品としてとても新しかったですよね。

岩根 誰かと生活を共にするということの様々な側面をきちんと描いていて、その一つの方法として、制度としての結婚をうまく使うという見せ方でしたね。