人の心がうけた傷に、完全な修復はない。

映画のもう一つのテーマである、「震災からの復興」について。高畑さんはこの映画を通して、ようやく東日本大震災を自分の身近なこととして感じられるようになった。
「当時、私は大阪にいて、母と一緒に津波の映像をテレビで見ていたんです。福島に親戚もいないですし、ニュースでいろんなことが流れてきて、その悲惨な状況は把握していても、それは自分のこととしての距離ではなかった。でも今回、被災地に足を運んで、その現場を目の当たりにしたことで……、もちろん、実際の被災者の方の苦労には遠く及びませんが、以前よりは、自分の体験として、感じられるようになった気がします。

結局、震災の傷は、10年経っても癒えていないんですよね。復興して、再生しているけど、まだ爪痕の残る被災地に行くと、その場所だけ空気の色が違う感じがする。今回のコロナ禍も、状況は、少しずつでもよくはなっていくと思います。でも、そこで受けた傷が完全に消えることはない。自分自身が大きなショックを受けたときも、時間が経てば傷は癒えるけど、完全に消えることはないように、完全な修復はないんです。大きく傷つくってそういうことなんだなと実感しました」

映画「浜の朝日の嘘つきどもと」より
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そうやって、自分の中の傷とも向かい合いながら、『浜の朝日〜』のことを、「今しか作れない映画」だと断言した。

「去年の今頃は、まさか来年も全く同じ状況で足掻いているとは想像もしなかった(苦笑)。でも、5年後10年後に観た時、『ああ、こういう時代だったな』と思い返せるひとつのピースになれれば。人々の苦しみや葛藤や切実さを昇華させる時に手助けをしてくれる力がエンタメにはあるように思います」

映画『「浜の朝日の嘘つきどもと」より
『浜の朝日の嘘つきどもと』
福島県・南相馬にある映画館「朝日座」に、茂木莉子と名乗る女性(高畑充希)が現れ、「経営が傾いた朝日座を立て直すために東京からやってきた」という。支配人・森田保造(柳家喬太郎)は戸惑いつつも少しずつ莉子の熱意に心を動かされていく。映画へのかけがえのない愛と、大切な人との約束を果たすため、小さな“嘘”をついても守ろうとした、オンボロ映画館のお話。監督はタナダユキ。新宿武蔵野館ほかで公開中
Photo by Aya Kishimoto
高畑充希(たかはた・みつき)
1991年、大阪府出身。2005年、山口百恵トリビュート・ミュージカル「プレイバック part2 〜屋上の天使」のオーディションでグランプリを獲得し、デビュー。ミュージカル『ピーターパン』(07~12)では主役を務め上げた。2013年、NHK連続テレビ小説『ごちそうさん』での演技が注目を集め、2016年放送の同枠『とと姉ちゃん』でヒロインに抜擢。『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(18/前田哲監督)で第43回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。2021年は主演ドラマ『にじいろカルテ』(EX)が1月より放送され、3月より上演した主演ミュージカル『ウェイトレス』で第46回菊田一夫演劇賞を受賞。さらに映画では『明日の食卓』(瀬々敬久監督)、『キャラクター』(永井聡監督)が公開されるなど、本年も多方面での活躍をみせる。11月より、WOWOWの連続ドラマW『いりびと―異邦人―』にて主演。22年夏にはミュージカル『ミス・サイゴン』でのキム役が決まっている。