荒廃中国社会―野次馬たちは白昼、公道の強姦事件を止めずに眺めた

07年から始まった「世も末」な風潮
北村 豊 プロフィール

「善意をあだで返す」風潮のきっかけ

その発端となったのは2006年11月20日に江蘇省南京市で発生した「南京彭宇事件」である。11月20日の午前中にある停留所でバスを待っていた徐寿蘭(女、当時65歳)は到着したバスに乗ろうとして転倒したが、骨折したのか身動き取れない状態になった。その時、バスから降りて来た彭宇(男、当時27歳)は親切心から徐寿蘭を助け起こし、タクシーに同乗して医院まで送り、徐寿蘭の治療が終わるのを待ち、所持金の少ない徐寿蘭に代わって医療費を立て替えて支払ってくれたのだった。

この善意の塊のような彭宇の行為に徐寿蘭が感謝したというならば、話は美談で終わったが、片足の脛骨骨折で入院加療が必要となり、治療費が極めて高額になると知って驚いた徐寿蘭は、「脛骨骨折の原因はバスから降りて来た彭宇に突き飛ばされたて倒れたことが原因だ」として、2007年1月に彭宇に対して損害賠償を請求する訴訟を起こした。損害賠償額は医療費を含む諸経費の合計として13万元(約215万円)であった。

徐寿蘭は警察官である自身の息子を介して裁判官の懐柔に成功し、2007年9月に裁判所が下した判決は、被告の彭宇は原告の徐寿蘭が被った損害額の40%に相当する4.6万元(約76万円)を支払えというものであった。裁判官は彭宇が徐寿蘭をわざわざ医院まで送った行為を「徐寿蘭を突き飛ばした後ろめたさの表れである」ことが推定できるとしたのだった。

この裁判結果が全国に報じられると、親切心で老人を含む困った人を助けると、善意をあだで返されて、予期せぬ損害賠償の請求を受ける可能性があることが知れ渡り、人々は路上に転んだ老人が倒れていようが、急病で倒れた人がいようが、一切助けようとせずに周りを囲んで野次馬を決め込むようになったのだった。

「下手に親切心から120番へ通報して人命救助を行っても、後に救助された人から犯人扱いされて、医療費を含む損害賠償を請求されたらたまったものではない」と考えることが中国国民の中で一般化したのであった。

どうしても路上に倒れている人を助けたいのであれば、周囲の野次馬に証人になってくれるという約束を取り付けた上で、自分が加害者でないことを証明するための現場写真を撮り、確かな証拠を固めた上で120番へ通報するというのが最も安全な方法になったのだ。

 

2007年に始まったこの風潮は、2011年の小悦悦事件を通じて改善が呼びかけられたが、それから10年間が経過しても何も変わらぬまま存続しているのが実情である。

それにしても、婦女子に対する強姦が都市の人や車の往来が激しい公道で白昼堂々行われるなどという事は、通常では到底考えられない。米国に本拠を置く中国語メディアは、中国におけるこの状況を「国已不国(国はすでに世も末)」だと形容した。

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