私たちが働いた稼ぎを横取りする「職場の独裁権力」を倒すには

会社を所有すべきなのは、本当は誰なのか
ヤニス・バルファキス プロフィール

公共の利益に寄与しない企業を破綻させる力

「ええ、その通り、アイリス」イヴァが自分の結論を述べた。「私は資本主義と取引可能な株に投票する。それが職場の独裁権力に対する投票であることは、私もよくわかってる。でもそれは内部の独裁権力であって、誰でもそこから抜け出すことはできるし、資本主義と取引可能な株は、全体的な自由を約束する前提条件になる」

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「そして私が投票するのは」アイリスが笑みを浮かべた。「民主主義の職場。リベラルな民主主義を嘲笑わず、この惑星を荒廃させない唯一のタイプの民主主義の職場」

ふたりにとって、それ以上の意見の歩み寄りは無理だったに違いない。イヴァはその時点で議論を終わらせたかったが、彼女が最悪に思った社会力インデックスと市民陪審についての議論が残っていた。アイリスたちの見るところ、そのふたつには、公共の利益に寄与しない企業を解散に追い込む力があった。

「無作為に選ばれた陪審に判決を下され、カフェが閉鎖に追い込まれやしないか、怯えながら生きていくだなんて」イヴァが漏らす。「それ以上に独裁的な権力の濫用が思いつく?」

「まったくサルトルの言う通りだ。地獄とは他人のことだ」コスタが口を挟んだ。「だけど、人生を地獄に突き落とすいろいろな方法があるなかで、信用格付け機関や、傲慢なテクノストラクチャーが牛耳る市場や、僕たちがつくり出したデータを使って、その僕たちを商品に変えてしまうビッグテックの監視に比べたら、市民陪審ははるかにマシに思えるよ」

そろそろ中国の話を持ち出すタイミングだ、とアイリスは思った。「中国共産党は国内の事業主に、もし社会の役に立たないならば株式を没収する、と伝えているらしい。私、選挙で選ばれた政党を信用するくらいなら死んだほうがいいのに、ましてや莫大な権力を持つ共産党だなんて。だけど結局のところ、どんな所有についても神権を持つ者はいない。だから、なんらかの方法で私たち自身が決めなくちゃいけない。それなら、無作為に選ばれた仲間の市民が下す判断に委ねたほうがマシ。本当のところ、官か民かを問わず、それ以上に優れた権力のチェック機構は思い浮かばない」