資本主義の毒を飲むしか、私たちを貧困から救う道はないのか?

不確かな未来に賭けるより、資本主義を倒せ
ヤニス・バルファキス プロフィール

一日1ドルで暮らす少女と大企業CEOに共通点はないが

「長いあいだ、君が僕たちや学生に話してきたように、共通の利益を─社会全体の意志を─定義するのが不可能なら」コスタは追及した。「社会はどうやって介入するんだ? どの共通の目標に向かって企業を導くんだ? あるいは、君が考えを変えたということか」

「あなたの指摘はもっともよ、コスタ」しばしの沈黙を破ってイヴァが認めた。「社会全体の意志を見極めようとしても、より影響力の強いグループや個人に操られてしまうことは避けられない。だけど、共通の利益をいつも不完全にしか捉えられないとはいえ、大まかには捉えられるし、また捉えるべきよ。富をつくり出す市場の力を完全に失ってしまわないために」

「そんなこと、許さない!」アイリスが大声で口を挟んだ。「ひとつしかない、あなたの取り柄を犠牲になんかさせない。少なくとも信念は守るのよ、イヴァ!」

アイリスにとってイヴァの取り柄とは、曖昧模糊としたエセ進歩主義を唱える改革屋とはきっぱり手を切った、サッチャーのような態度にあった。彼らのような独りよがりの改革屋ときたら、「共通の利益」について延々と御託を並べるが、その実、自分たちが単に絶滅寸前の体制を擁護していることに気づいてもいない。実際、共通の優先事項という考えをイヴァが容赦なく否定するのを、アイリスは全面的に支持していた。もっとも、イヴァとはまったく別の理由からだった。

 

「共通点なんか、あるはずがない」アイリスが指摘する。「清潔な飲み水もなく、一日1ドル以下で暮らす少女と「宇宙の支配者」とのあいだに。1回のボーナスが、サハラ以南の一国の教育予算を凌ぐ彼らとのあいだに」

「それでいて、彼らのあいだでも公正な競争は不可能だ」コスタが言った。「アマゾンやウォルマートのような強大な企業に勝てる者はいない」

「選択肢は次のどちらかしかない」アイリスが続ける。「重要な価値や自由を、リベラリズムの名において強圧的に押し潰す寡頭政に屈するのか。それとも、資本主義という発明を覆さざるをえないと認めるのか。そして後者の場合、残された道はひとつしかない。コスティの話を信じるならば、それはOC反逆者(注・著者バルファキスが本書で描いた「もう一つの世界」の反資本主義運動「資本主義を凍結せよ(Ossify Capitalism)」の活動家たちのこと)たちが切り開いた道ってこと」

「なるほど」イヴァが頷く。「それには同意する。たぶん、あなたの言う通りだと思う。資本主義という野獣を手懐けようとしても、おそらくうまくいかない。そして、その場合」イヴァがアイリスの目を見据えた。

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