漫画/斉藤倫 文/FRaUweb

パラリンピックの競技や、開会式、閉会式で、素晴らしいパフォーマンスを見せてくれたアスリートやアーティストたち。自分たちにある現実に向き合い、全力で生きる姿に、心を動かされた人も多くあることでしょう。

しかし中には、かつて悲しいいじめや差別を体験した人もいます。

パラリンピック閉会式にバイオリニストとして出演した式町水晶さんもそのひとりです。漫画家の斉藤倫さんがその式町水晶さんをモデルとして描いた『水晶の響』は、脳性麻痺や緑内障などの障がいを超えバイオリニストとして活躍していく式町さんの姿を、フィクションの物語にしています。講談社「BE・LOVE」で連載され全4巻で発売されていますが、式町さんの実体験が多く描かれており、現実を私たちに明確に突きつけてくれます。
斉藤さんにパラリンピック閉会式をご覧になったうえでの感想もお聞きしました。
現実を伝える漫画を読むと、ただパラリンピックに感動するだけで終わりではいけないと強く感じさせられます。

4巻発売を記念して、特別に1巻5話までの無料試し読みもお届けします。

小学6年生になった水晶を待ち受けていたのは壮絶ないじめだった…(c)斉藤倫『水晶の響』/講談社
-AD-

式町水晶くんが閉会式に出演していてびっくり

「式町水晶くんが出演されていて、とてもびっくりしました。パラリンピックの大舞台での本当に素晴らしい演奏・パフォーマンスに感激しました。
これまでの彼の努力は想像を絶するもので、その水晶くんの力強く美しいバイオリンの音色が世界中に響き渡ったようで、涙があふれました」

水晶の響』の作者・斉藤倫さんはこう語ります。

東京パラリンピック閉会式では多くのアーティストたちが出演した Photo by Getty Images

式町さんは3歳のときに脳性まひ(小脳低形成)と診断され、リハビリとして4歳からヴァイオリンを始めました。障がいにより指の力の入れ方さえも分からなかった状態から、想像を絶する努力、師との出会い、家族の支えにより、多くの人を魅了する演奏を奏でるまでに成長し、さらに作曲とアレンジの才能を開花させたポップ・ヴァイオリニストとなりました。

2021年9月5日に行われた、東京パラリンピック閉会式では、多くのアーティストたちが登場しました。その素晴らしいパフォーマンスを見て、障害のある人たちによるものと思わなかった人もいたのではないでしょうか。その中のひとりが、ポップス&ジャズのバイオリニスト、式町水晶さんだったのです。

障害あるなし関係なしに完璧な人間なんでいない

斉藤さんは、こう続けます。
「閉会式では、人種や性別や年齢やさまざまな障害を超えてのパフォーマンスが個性的で、それが郡をなして、圧倒されました。さらには、関係者やスタッフの方々やボランティアの方々の映像も映し出されて、この大会の大きな繋がり大きな一体感を感じ、胸が熱くなりとても感動しました」

斉藤さんが式町さんに出会ったのは、式町さんが高校2年生の2013年。友人の紹介で訪れたコンサートに、式町さんが出演していたのです。式町さんと2歳違いのお子さんがいらっしゃるという斉藤さんはその演奏に感動。その後も一人のファンとしてコンサート会場に足を運び、この漫画の構想を深めていったと言います。

「パラリンピックの選手のみなさんが、障害があることを忘れてしまいそうなくらい力強くて驚きました。
オリンピックの選手のみなさんは、自分とは違う超人みたいなイメージなんですが、パラリンピックの選手のみなさんはみんなどこかにハンデ(障害)がある方々で、人間の未知な可能性を強く感じさせられました。
障害のあるなし関係なく完璧な人間なんていなくて、誰しもどこかに欠点や弱点があると思います。だけど諦めず日々一歩ずつ前に進めば可能性はきっと広がる、そんなエールを送ってくれた気がします
私もとても励まされました。ありがとうございます」(斉藤さん)

式町さんは、2020年3巻発売を記念して行った斉藤さんとの対談でこう語っています

「漫画で印象的なのは、僕が受けてきたいじめについての描写ですね。講演をやらせていただくときも、いくらおしゃべりな僕でもけっこう気を付けていて……。すべてを話してしまうと、めちゃくちゃ暗い話になっちゃうんですよ。だからちょっと真実を伝えつつ暗くなりすぎないように話しているんです。うれしかったのは、斉藤先生が漫画のなかで描いてくださったことによって、悲惨ななかにも明るさがあったこと。すごく明るいところも描かれていて、読んだ人たちが重い気持ちになりすぎない。それが僕はすごくいいなと思ったんです。漫画だからこそできることだなって」

漫画をお読みの方は、「あのひどいいじめ描写はどうかフィクション部分でありますように」と願ったのではないでしょうか。そしてそれが現実だったことを悲しく感じることでしょう。

2021年、東京オリンピックとパラリンピックが開催された夏は、多くの人の、大人も含めたいじめや暴力、差別の現実が浮かび上がりました。いじめや差別などの現実と向き合いながら、恩師や親友、家族とともに決してあきらめず、自分の能力を広げていった。式町水晶さんの物語、そして音楽は、わたしたちに大きな気づきと元気を与えてくれます。