雅な雰囲気に包まれて月を愛でる
京都の「観月祭」に感動…!

2013年上賀茂神社にて。撮影:秋尾沙戸子

加えて、月を愛でる場が用意されているのだ。秋にはそこかしこで「観月祭」が開かれる。これが大きかった。最初に訪れたのは、上賀茂神社の「賀茂観月祭」だった。薪の焚かれた川に差しかかる橋殿では、未生流家元による献花と観世流による能が奉納され、境内では月見団子やにごり酒が振る舞われた。ちょうど望遠機能に優れたカメラを手に入れたばかりだったこともあり、境内芝生の上で青楓の葉越しに満月を写すのに夢中になった。

翌年は、京都の友人に誘われて下鴨神社の野点席へ。境内では「名月管絃祭」が開かれ、舞楽や雅楽の演奏を楽しんだ。平安時代の音色を聴きながら、楼門の上に輝く月を眺め、京都で暮らす悦びを噛み締めたものだ。

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東山にある真言宗智山派総本山智積院(ちしゃくいん)「観月会(かんげつえ)に申し込んだこともある。真言聲明(しょうみょう)を一緒に唱え、「月輪観(がちりんかん)」という瞑想を経験した。自分の心が「満月のように欠けることなく真ん丸で、澄みきって清らかに明るく光り輝いている」と感じる真言宗の瞑想法らしい。

智積院からは東の空が近い。ライトアップされた名勝庭園の上に、やがて煌々と輝く白い月が昇って来る。それは思わず感嘆の声をもらすほど美しく、実に神秘的で、じっと眺めていると心洗われる感じがする。「月は確実に私を照らしてくれている。月明かりが降り注ぎ、我が身を浄化してくれている。これぞ月光浴だ」などと月の波動を受けてテンションがあがる貴重な夜だった。

どれもこれも、開催される日は中秋の名月。旧暦の8月15日(新暦では令和3年9月21日)だ。1年でもっとも月が美しい日。そして五穀豊穣に感謝する日でもある。それを祝って神社仏閣で神事や法要が斎行される。今年は8年ぶりに十五夜と重なるので特別だ。ひときわ白く眩しいに違いない。煌々と輝く月の下、社殿・舞殿・楼門そのものが絵になるのである。雅が演出されるのだ。自分が平安絵巻の中にいるような錯覚に陥る。この恍惚感がたまらない。

写真提供:旧嵯峨御所 大本山大覚寺

雅にこだわるなら、おそらく極めつけは、旧嵯峨御所 大本山大覚寺だろう。大沢池(おおさわのいけ)をぐるり龍頭舟に乗って月を愛でる「観月の夕べ」は、平安貴族の遊びを再現している。実は、私はまだ体験したことがない。昼間、茶友が企画した船上のお茶会に招かれたことはあるのだが、夜、大沢池の水面に映る月を眺めながらの舟遊びは未体験のままだ。今秋は残念ながら、京都府の緊急事態宣言が延長され、「観月の夕べ」は開催中止となった。来年こそ龍頭舟に乗って月を愛でたいものだ。乗船できずとも、月明かりの中、水面を滑る舟のシルエットを遠巻きに眺めるだけでも、気分は平安王朝時代へとタイムスリップできるのではないだろうか。

実は東京でも、これまでも月を見る会なるものは開かれてきた。六本木ヒルズ展望台から望遠鏡で月そのものを観察したり、東京タワーのお月見階段ウォ―クを歩いたり、スカイツリーの灯りを使ったりするイベントなどなど。摩天楼の照明群より高く、月に限りなく近い天空で、というのが東京流なのかもしれない。

illustration/東村アキコ

文/秋尾沙戸子
名古屋生まれ、東京育ち、のち京都暮らし。サントリー宣伝部を経て、NHK「ナイトジャーナル」キャスターや情報番組コメンテーターとして活躍。著書に『ワシントンハイツ:GHQが東京に刻んだ戦後』(新潮文庫、第58回日本エッセイスト・クラブ賞)、『運命の長女』(第12回アジア・太平洋賞特別賞)、『スウィング・ジャパン』『渋谷の秘密』など。

イラスト/東村アキコ
1975年生まれ。漫画家。宮崎県出身。1999年『ぶ~けデラックス』NEW YEAR増刊にて『フルーツこうもり』でデビュー。『ひまわりっ~健一レジェンド?』『ママはテンパリスト』、『海月姫』(第34回講談社漫画賞少女部門受賞)、『かくかくしかじか』(第8回マンガ大賞、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞)、『東京タラレバ娘』『美食探偵 明智五郎』『雪花の虎』ほか、ヒット作多数。『講談社「Kiss」にて「東京タラレバ娘シーズン2」連載中!
 

連載【アキオとアキコの京都女磨き
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