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「失礼」というパワーワードが、私たちから奪い取って行くもの

違和感ポリスの失礼陰謀論
私たちは「失礼にあたります」という指摘に怯えがちですが、「失礼」への過敏さは、私たちから重要なものを奪っているかもしれません。現在発売中の「群像」10月号より、東京大学総合文化研究科教授で心理言語学が専門の広瀬友紀さんのご寄稿をお送りします。

「風評」ってそういう意味だっけ?

「自粛要請」。「三密」「ソーシャルディスタンス」等のコロナ新語と違って以前から定着していた表現だが、その自己矛盾(要請されたら自粛ちゃうやん)は巷でも指摘されている。

私が最初に「自粛」という表現について意識したのは1989年の昭和天皇崩御直後。あらゆる催しが中止になる中、開催までは自粛しなかった今宮えびす祭にノコノコ出かけ「TVに取材されるかも」と答えまで用意していたアホな学生だった(されませんでした)。思えばその頃から「自粛」の使われ方に「自発的な選択として何かを行わない」というその本来の語義と「意に反してとりやめさせられる」といういわば逆の意味が入り交じることにじんわり違和感を持っていた。

そして令和の今では後者がメインの語義に完全に成り代わったようだ。外出や帰省の「自粛要請」に反発する声がネットで散々聞かれるが、元来の意味の方を理解しているらしいあの偉い外国の人は銀座にお買い物にだって行ってた。

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そういえばコロナ禍2年目のこの夏は、ワクチン供給に関し政治家が「足らないという風評が広がっている」と発言して批判された。「風評」という表現が、あたかも根拠を欠いた情報だとするような意味を帯びているから「予約キャンセルされてんだよ、ガセじゃねーだろ」との怒りももっともだ。

そう思い「風評」という語を調べてみたら「世間の評判。うわさ。とりざた」とあり、意外にも「真実でない」という意味は含まないようだった。一方「風評被害」となると「根拠のない噂による損失を受ける」という意味にしかほぼ使われない。結果、「風評」ももはや信憑性があってはならず、真実である情報について使われる場合にはかえって「それ失礼だろうが」とすら思えてしまうがいいんだろうか。

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