「暗闇」「無音」を実体験する

ではみなさんは、水中でコースロープがあったり、陸上で紐でつながったガイドの方がいらしたら、全力で泳いだり走ったりできるだろうか。
そういう「暗闇の世界」や「無音の世界」を体験することができるのが、竹芝にある「ダイアログ・ミュージアム 対話の森」である。

「ダイアログ・ミュージアム」とはドイツの哲学博士アンドレアス・ハイネッケ氏の発案で1988年に生まれ、世界50ヵ国で開催され、900万人が体験しているソーシャルエンターテインメント。暗闇や無音の体験を通して、五感の豊かさを学ぶことができる。海外では学校の授業の一環として取り込まれているところも多い。日本では志村真介さんが1999年から活動し、2020年8月に竹芝にミュージアムがオープンした。目の見えない世界を体験する「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」と耳の聞こえない世界を体験する「ダイアログ・イン・サイエンス」がある。アテンドをするのはそれぞれ実際に障害のあるスタッフだ。

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筆者は「ダイアログ・イン・サイレンス」を体験したことがある。グループの方々と数名でそれぞれの部屋に入り、耳にヘッドホンをして聴覚のない世界で、様々な「対話」をしていく。筆者の父親は大学生のときに聴覚を失っており、筆者が生まれた時には聴覚がなかったので、その父の状況を感じてみたいと参加したのだ。ゲームの形で進むため、そこにいた小学生から大人まで一緒に楽しむことができた。アテンドしてくれたスタッフのバンダナさんとのコミュニケーションもとても嬉しかった。

マスクをしていても表情豊かでとてもチャーミングだったバンダナさん 

父は20歳まで健常者だったので話すことはできたし、九州男児で頑固だったからか、一切手話を覚えずに生涯を閉じた。だから父との幼少期からのコミュニケーションはジェスチャーや表情、そして筆談だった。いま思うと父も筆者も手話を覚えておけばさらに世界は広がったのにと思うのだが、それでも「表情やジェスチャー」が大きい人間として育ったので、外国語は苦手でもコミュニケーションはなんとなくできたりする。そこに手話も加わって「その国の言葉」以外のコミュニケーションツールがあると、世界とのコミュニケーションの境界線が下がることを改めて感じた。