東京パラリンピックが9月5日に幕を閉じた。
わたしたちは先天性でも、後天性でも、なにかしらの障害を抱えた人が「出来ない」と言い訳をせずに大きなことを成し遂げていくのを目の当たりにした。

そんな中、「パラリンピックで感じたことを一過性にせず、レガシー(財産)にしていきたい」と、目の見えない世界や耳の聞こえない世界の体験を子どもたちにしてもらおうという活動が進められている。暗闇の世界や無音の世界を体験できるダイアログ・ミュージアム「対話の森」の5000人無料招待プロジェクトだ。
それは一体どのようなものなのか。どんな意味があるのか。

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暗闇の中で泳ぎ、走ったアスリートたち

200M個人メドレーで銀メダルを獲得した富田宇宙選手は、高校2年生のときに網膜の病気を発症し、徐々に視力を失った。大学時代熱中した競技ダンスも、宇宙飛行士になる夢も諦めたという。その富田選手とともに100Mバタフライ決勝で闘い、金メダルを獲得した木村敬一選手は2歳のときに網膜剥離になり、全盲となったという。

バラフライ100ⅿで金メダルに輝いた木村敬一選手(写真中央)と銀メダルに輝いた富田宇宙選手(同左)Photo by Getty Images

ふたりが金メダルと銀メダルでゴールし、プールの中で抱き合う様子、そしてともに会見する様子は胸うたれるものだった。それぞれ3つと2つのメダルを獲得した両選手。インタビューのたびに、「メダルをとらせようとしてくれた周りの人」への感謝を繰り返していたことも強い印象を残した。

さて、このふたりをはじめ、視覚障害のあるアスリートの方が真っ黒なゴーグルを装着してプレーすることに驚いた人もいるのではないだろうか。
障害の程度は人それぞれだからこそ、光を多少感じる人も感じない人もフェアな状態でプレーをするために、光を遮断するゴーグルを装着していたのだ。つまりみな「暗闇の中」で全力のプレーをしているのである。

個人メドレーでも銀メダルをとった富田宇宙選手。黒のゴーグルが光を遮断するものだと知らなかった人も多いのではないだろうか Photo by Getty Images

暗闇の中で、どうやってまっすぐ進むのか。

夜のネオンや携帯の液晶など、なにかしら、どこかしらの電気がついていることが多い現代。「暗闇の中」にいること自体経験したことがない人は多いだろう。しかし光を感じない状態の中で「前に」進むのだ。競泳の場合はコースロープや目でプールの底やほかの選手を見ながら泳ぐのとは異なり、「目印がない」状況で「まっすぐ泳ぐ」のは難しい。コースロープなどわずかな感覚を参考に泳ぐしかないという。ターンやゴールのタイミングを教える「タッパー」の方もいる。

陸上でも、紐をもってともに走る「ガイド」の方や、飛ぶタイミングなどを声で知らせる「コーラ―」の方がいる。マラソン女子で金メダルをとった道下美里選手のガイドダンナーは、前半は公務員ランナーの青山由佳さん、後半は東海大学時代に箱根駅伝にも出場してきた志田淳さんがつとめた。道下選手は「一緒にとった金メダル」だときっぱり語っていた。

見事な走りを見せたマラソン女子金メダリストの道下美里選手(写真左)と後半のガイドランナーをつとめた志田淳さん Photo by Getty Images