ベストセラー経済学者が語る「銀行が必要なければ、資本主義もいらない」

資本主義の実態は空っぽの「架空資本」
ヤニス・バルファキス プロフィール

市民陪審による社会的格付け

コスティの説明では、彼らの世界では企業にさほど威圧感はない。証券取引所がなく、またフラット組織のため、企業のサイズは比較的小さく、せいぜい数百人規模の会社が多い。それでもコスティが強く指摘した点がある。市民の要求によって、企業が社会に説明責任を果たすメカニズムが発達したことだ。「社会的説明責任法」が成立し、どの企業も「社会力インデックス」に応じてランク付けされる。ランダムに選ばれた「市民陪審」が審査を行なう。

とはいえ、市民陪審は、地元の全市民のなかから選ばれるわけではない。新しい企業が法人登記された際に必ず組織される、ステークホルダー(利害関係者)のデジタルコミュニティから選ばれる。もっとも、企業が貢献するか影響を与える顧客やユーザー、地域社会の構成員はあとからいつでも参加可能だ。企業の行動、活動、地域社会に与える影響は、市民陪審によってモニターされ、標準的な社会格付けシステムに則って定期的にランク付けされる。長い年月をかけ、幅広い産業や地域にわたって開発され、練り上げられたシステムである。チェックを受けて格付けが確定すると、オンラインで公表され、誰でもクリックひとつで確認できる。

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市民陪審による社会的格付けの目的は、企業内の人たちが企業外にも関心を向けるように促す点にある。もし企業の格付けが常に一定基準を下まわることになれば、公的調査の対象となり、最終的に法人登記の抹消につながる。その場合、企業は業務停止に追い込まれるか入札にかけられ、経営を引き継ぎたいグループにそのチャンスがめぐってくる。

古代ギリシャのシラクサで、臣下のダモクレスは王の栄華を褒めそやした。だが、ダモクレスが王座に座ってみると、頭上には鋭い剣が髪の毛1本で吊るされていたという故事がある。法人登記が抹消になるような事態はそう頻繁に起きるわけではないが、そのような剣が常に頭上から吊り下がり、いつ命を落とすはめになるかわからないと思えば、企業は搾取を控えようと思うだろう。だが市民陪審による社会的格付けは、もっと目立たない場面で大きな影響をもたらす。

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