パリの同時多発テロで妻を失った父親の言葉

時は流れ2015年、わたしはある報道を見てハッとした。

わたしと全く同じことを訴えている人がいる! 同じ考えを発信し、そして世界中の賛同を受けている!

日本でもテレビ、新聞、各メディアで数多く取り上げられていたのでご存じの方も多いと思うが、それは2015年パリの同時多発テロで妻を失った、1歳5ヵ月の小さな息子を持つアントワーヌ・レリスさんというフランス人ンジャーナリストの方がFacebookに投稿し22万以上の人からシェアを受けたという記事だ。

2015年11月13日、パリ市内サッカースタジアム近くで自爆テロが起きたのち、4カ所の飲食店や劇場が襲われ、銃が乱射された。死者は130人にものぼると言われている Photo by Getty Images

内容はテロリスト達に向け「憎しみという贈り物を君たちにはあげない。怒りに応じてしまったら、君たちと同じ、まさに屈することになるんだ」「息子と二人になった。もう君たちに構っている暇はない」「メルビルが昼寝から目を覚ますから一緒にいなければならないんだ。まだ17ヵ月。この子がずっと自由に生きていけば、君たちは恥を知ることになる。だから、君たちを憎むことはしない」というもの。

アントワーヌさんの手記が一冊にもまとまっている
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まさに私が2001年の事件直後から想い、実践してきたこと。同じ気持ちを共有できる人がいてくれることも勿論だが、何よりうれしかったのは、その考えに22万人を超える世界中の人々が賛同してくれているという現実だった。

時代は流れたのだ! と感じた。長きにわたる暴力による負の連鎖、暴力では何も解決しない、大事なことに世界が気づき始めたのだ! と思った。

先に述べてきたように、2021年の今も尚、変わらず世界は混とんとし、テロの脅威にさらされ続けている。20年何も変わってはいないのではないかと感じはするが、それでも確実に時代は変わっていっているのではないか。世界中の一市民それぞれが大切なことに気づき行動すれば、これからの10年、20年……どれくらいかかるかわからないけれど、良い方向へ向かっていけるのではないか。

一筋の光を見逃さず、僅かであろうと希望を持って、これからも生きていこうと思う。

テロ直前の2001年夏、子供たちをプールで遊ばせる陽一さん。陽一さんも、笑顔で家族が暮らすことを望んでいるはず。晴美さんはそう信じている 写真提供/杉山晴美

◇2021年9月11日に送る記事の後編「2001年9月11日のアメリカ同時多発テロから犠牲者遺族が過ごした「20年」」では、20年で子どもたちがどのように育ったのかをお伝えする。

杉山晴美さん連載「あの日から20年」を最初から読む

【#1 あの日前編】「「無事でいて!」2001年9月11日、NYでテレビに向かって叫んだ日の話」
【#1 あの日後編】「夫は帰らなかった…2001年9月11日アメリカ同時多発テロの翌日見たもの
【#2 捜索前編】「一度避難していた?「アメリカ同時多発テロ」行方不明の夫の「当日の行動」
【#2 捜索後編】「「アメリカ同時多発テロ」振り回される誤情報・行方不明の夫の両親との対面
【#3 決意前編】「9.11テロで行方不明の夫探し…妊娠4ヵ月の妻を襲った「突然の出血」
【#3 決意後編】「飛行機突入2分前、夫は80階にいた――米同時多発テロ行方不明者妻が見た「現実」
【#4 前編】「911テロで夫は行方不明…事件4週目の「追悼ミサ」、3歳の長男の反応
【#4 後編】「日本人の遺体が見つかった…アメリカ同時多発テロ行方不明の夫「退職」の意味
【#5 前編】「アメリカ同時多発テロで行方不明の夫のことを、3歳長男に話した日の話
【#5 後編】「「子供たちを育てていかなければ」夫は911テロで行方不明…3ヵ月後の妻の決意
【#6 前編】「「空でお雑煮食べてるよ」アメリカ同時多発テロ・夫が行方不明のまま迎えた元旦の話
【#6 後編】「10年目の結婚記念日、911後に夫不在で迎えた「3児の母」が思ったこと
【#7 前編】「結婚10年を目前に夫が行方不明…911犠牲者の妻が振り返る「22歳の出会い」
【#7 後編】「母ひとり娘ひとりの妻のため夫が姓を変え…911犠牲者の妻が考える「夫婦」とは
【#8 前編】「夫が行方不明になり5カ月…アメリカ同時多発テロに翻弄される妻から「夫への手紙」
【#8 後編】「夫はテロで行方不明、3歳と1歳の子もいる…妊娠9ヵ月の妻が決断した「出産」
【#9 前編】「アメリカ同時多発テロの「報復」で戦争勃発…犠牲者の妻が考えたこと
【#9 後編】「「犠牲者」の夫だったら何と言う?911後のアフガン戦争を子供たちにどう伝えるか
【#10 前編】「妊娠4カ月のとき911テロで夫が行方不明に…3人目出産の日の「奇跡」
【#10 後編】「過去2回の難産…アメリカ同時多発テロから半年後の出産、感じた「夫」の存在
【#11 前編】「夫は行方不明のまま…911から半年後「メモリアルデー」に生まれた子につけた名前
【#11 後編】「みんなの想いが名前に…アメリカ同時多発テロ・夫が行方不明の中での出産に思うこと
【#12 前編】「911テロで夫が行方不明のまま出産…直後に「夫の遺体」が確認された日のこと
【#12 後編】「4歳2歳0歳の子たちと迎えた「夫の葬儀」…911から7ヵ月、妻の覚悟
【#13 前編】「観戦予定だった…911で犠牲になった夫の「2002サッカーW杯チケット」
【#13 後編】「アメリカ同時多発テロ「夫の葬儀」を終え…4歳2歳0歳と行った「帰国の準備」
【#14 前編】「「ぶーちゃ、また来るからね」アメリカ同時多発テロ・3人の子と来た夫のいる「現場」
【#14 後編】「4歳2歳0歳連れて帰国…911テロで犠牲になった夫の誕生日に妻が思ったこと
【#15 前編】「9月11日から1年…日本に帰国した「アメリカ同時多発テロ遺族」の私がやったこと
【#15 後編】「「お父さんテロで死んじゃったの?」911から1年の日、4歳の息子が直面したこと
【#16 前編】「夫が犠牲に…アメリカ同時多発テロの翌年から、なぜ私は想いを書き続けたのか
【#16 後編】「手記がドラマ化…「アメリカ同時多発テロ」犠牲者の妻が感じた「伝える意味」
【#17 前編】「「親の死」を子に伝えるには…3歳のとき実父を亡くした911犠牲者の妻が思うこと
【#17 後編】「中学生の長男が手記の読書感想文を…911犠牲者の妻が感じた「夫の存在」
【#18 前編】「911の犠牲者の妻が、2011年3月11日東日本大震災の日に起こした行動
【#18 後編】「「親の死」を子に伝えるには…3歳のとき実父を亡くした911犠牲者の妻が思うこと
【#19】「アメリカ同時多発テロ遺族「母と息子3人」911から10年超えて見た「新たな夢」
【#20 前編】「「子供依存」への恐怖、実母のがん…アメリカ同時多発テロ犠牲者の妻の決意
【#20 後編】「アメリカ同時多発テロ遺族「母と息子3人」911から10年超えて見た「新たな夢」
【#21 前編】「すべての人の居場所」を…911犠牲者の妻、50歳でイタリアンバール開店の挑戦
【#21 後編】アメリカ同時多発テロ犠牲者の妻を支えた母の最期を、「居場所」で見送った日のこと
【#22 前編】「911を乗り越え「居場所」として作った飲食店…5年目に襲いかかった新型コロナ
【#22 後編】「飲食店開店5年目でコロナが…アメリカ同時多発テロ犠牲者の妻「決断」の理由