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明治時代に「sex」はどのように日本語に訳されたのか、という問題

「性」の近代日本誌(3)

近代日本での「性」をめぐる言葉について考える場合、二つの面で、『造化機論』には重要な意味があります。

一つ目は、原典がThe Book of Natureという書籍であるとはっきりしている点によっています。このため、原典の英文と、邦訳の文との対応を、じっくり比較検討できるわけです。

ここから、例えば、訳者である千葉繁の英語力を検討することが出来ます。あるいは、英語文脈(西欧の文脈、と広くとらえてもいいかもしれません)にある特定の概念や図式などが、どのように日本語文化圏へと翻訳移入されたか、についても考えることが出来ます。

二つ目は、『造化機論』が出版された翌年(1876年)に、同じく千葉が訳者となり出版した『通俗造化機論』という書籍が存在するため手にすることが出来ることがらです。

また寄り道になりますが、この点を理解してもらうために、『通俗造化機論』について簡単に説明しましょう。

『通俗造化機論』表紙
 

『造化機論』と『通俗造化機論』の違い

『通俗造化機論』は、1876年に出版されるのですが、『造化機論』の通俗版、改訂版なのです。訳者は両者とも千葉繁、原典は両者ともThe Book of Natureでした(『通俗造化機論』には、第二篇(1878)と第三篇(1879)も存在しますが、ここでは扱いません)。

『造化機論』とその後の『通俗造化機論』の違いをつかんでもらうために、出だしの同じ部分を以下に抜き出してみましょう。原典のThe Book of Natureの英文をまず挙げ、次に『造化機論』、『通俗造化機論』と並べてみます。なお旧漢字を適宜新漢字に改めています。

「MALE GENERATIVE ORGANS
The Generative Organs of man consists of two distinct outward members, called the Penis and the Testes, or Testicles ―― both together being frequently called the Genitals.」

「第一条 陽経論
男子ノ継嗣ヲ得ル機関ハ体外ニ付着スルニ二個ノ物ヨリ成リ一ヲ陰茎一ヲ睾丸或ハ外腎ト曰フ數々之ヲ并セテ「セニタルス」ト称スルコトアリ」

だいでう 陽経をとこのものろん
男子なんし生殖器うみうつはからだまえつきたるふたつのものよりり一つを陰茎いんけうといひ一つを睾丸或きんあるひは外腎ぐあいじんともいふ此二物このふたつあわせて「セニタルス」となづくることり」

いかがでしたでしょうか。

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