働く男女の幸福度と日本の社会課題はつながっている

働く独身男女の話を聞きながら、豊嶋さんはある“重大な真実“に気がついた。少子化、労働力不足、経済の停滞……現代社会が抱える課題の多くは、「仕事をがんばればがんばるほど、プライベートが報われないのはなぜか」豊嶋さんをはじめ、独身男女が持つ悩みとつながっているのではないかという因果関係だ。

「根本的な解決策を考えたとき、私は働く男女の幸福度を上げることだと思いました。公的自意識(仕草やふるまいなど他者から見える部分に向けられた意識)による承認欲求は仕事で満たす機会がある。一方で私的自意識(感情や心理など内面的な意識)による承認欲求は、仕事ではなかなか満たされない。けれど公的、私的どちらも満たされなければ、心の健康、つまりウェルビーイングにはつながりません。企業が取り組むエンゲージメントやモチベーション向上においても、アイデンティティが正常である=心が健康状態であることが大前提。

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独身男女が『出会い』を通じて、プライベートを充実させることができれば、私的自意識による承認欲求を満たすことができる。そうすると、結婚率とともに出生率が上がり、仕事のモチベーション向上により経済の活性化にもつながるのではないかという打ち手を見つけたんです」

1986年に男女雇用機会均等法が施行されてから今年で35年を迎える。可決された当初と比べると、女性活躍においてはめざましく前進をしたが、“男女均等”と呼ぶにはまだまだ程遠いのが現実だ。独身男女と社会課題の“因果関係”に気付いた豊嶋さんは、「このまま放っておくと取り返しのつかない社会になってしまう。いま私が動かなくては誰が動くのか?」と、強烈な使命感に駆られた。すぐに独身男女の『出会い』を提供するサービスの構想を練り始め、ほどなくして退職。2020年8月、AI恋愛ナビゲーションアプリ「Aill」をリリースした。

AI恋愛ナビゲーションアプリと謳っているが、巷にあふれる出会い系アプリと何がどう違うのか尋ねると「まったくの別物」だと返ってきた。まず利用できるのは、サービスに加盟する企業に勤める独身社員のみ。そして彼らに社外の出会いを提供するのに、AIが仲介役として、ふたりのコミュニケーションをアシストしてくれるというのだ。

「Aill」使用画面サンプル 写真/Aill提供


「AIは、男女特有の考え方から生まれるすれ違いを緩和し、行動を最適化することで進展を早める役割を果たします。実は私たちが思っている以上に男女のすれ違いって驚くほど多いんです。男性がよかれと思ってしたことが、女性にとって悪印象に映ったり、その逆も然り。また、デートに誘ったり、気持ちを伝えるタイミングをミスってうまくいかなくなることも。

例えば、女性は男性のことをもっと知ってから会いたいと思っているのに、男性が早い段階でデートに誘おうとするとします。そうするとAIが『ちょっと待って!デートに誘うのはまだ早すぎる』と、止めてくれるんです。なぜなら、『そろそろ会ってみる?』などと、女性側にリサーチを事前に行って、予測値のすり合わせをしているから。そんな風にして『ここぞ!』というタイミングでAIがコミュニケーションをアシストしてくれます」

「Aill」の利用者は、加盟企業に勤める社員ということもあり安全性が高いゆえ、相手の素性のわからないいわゆる出会い系アプリよりも抵抗感なく始めやすいというのも大きな利点だろう。さらに「お金ではなく労力の費用対効果が高い」と豊嶋さんは続ける。

「例えば、アプリで知り合った男性10人と会うとします。その中に自分のニーズに合う人は何人いるでしょうか? ただでさえ仕事で疲れているのに、せっかくの休みにフルメイクをして都心まで出かけて……理想とかけ離れた相手だったときのガッカリ感ってハンパないですよね(笑)。その点「Aill」だと、AIを通じて会う前からしっかりとコミュニケーションが取れるので『あれ、思っていたのと全然違った』という事態に陥ることも少なく、会ったあとの進展率もすごく高いんです」