2021.09.06

コロナ禍の今あの人が生きていたら…107歳篠田桃紅氏「天災への心構え」

これでおしまい(3)
2021年3月に107歳の生涯を終えた世界的美術家、篠田桃紅さん。
「女性は結婚して家庭に入るもの」という価値観を嫌い、自分の考えで生きたいと願った彼女が遺した「人生のことば」は、今を生きる私たちの心に響く金言が満載です。彼女の人生観を綴った最後の著書『これでおしまい』から、彼女の書と金言をご紹介します。

10歳で関東大震災に遭遇、肺結核にも感染

終わらないコロナウイルスの脅威に、精神的に疲弊している人が増えています。今こそ、篠田桃紅さんが語る「天災・戦災への心構え」に耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

「この世に生を受けて、幼少期から現代まで、私の場合は一世紀ある。人間の歴史は、毎日毎日の積み重ねと、外部からの、天災、戦争など人間個人ではどうすることもできないもの、それもガラリと変わるものでつくられているんだなと思いますね。外界というもののなかで、人間が個人として、どうやって身を処してきたかということを考えると、運というものも大きいけど、個人の考え方も非常に作用していて、いろいろな状況のなかで駆けずり回ったり、這うようにしたり、また、ただ普通に歩いたり、そういうふうにしてつくられるのが一生だなと思いますね。

私は10歳のときに関東大震災に遭って、青春期は戦争で逃げ惑い、戦争などは人間が起こしているものだけど、個人ではどうすることもできず、そして死病と恐れられた肺結核に感染した。我が身が起こしたことというより、外部から押し寄せてくることに、どうにかして生きてきた。個人として生きていくためには、自分で何かを持たなければならない。やれることをやって生きてきた。

人々がみな、無欲な生き方をすれば、地球の上はもっといいところになるだろうという説はこれまでありましたね。欲望というものを、みなが抑制して、食は飢えぬほど、衣は暑さ寒さに耐えられればいいと。欲望というものは果てがないから。きりがないから。何でも、これでいいと満ち足りる気持ちをある程度を持てば、平和でのどかな地球になりえるだろうと。人の知恵がそこまで行けばいいと。だけど、人は何かを得れば、その先のものを得たいと、永遠に欲が止まらないからしようがない。

何が人間の幸福なのか。大昔から人は考え続け、文学や哲学、宗教などが追求し続けてきたけど、いまだにこれだという決め手がないわけですよね。ただ、あまりに欲望を満たそうとすると、周りが非常に困るし、最後は自分自身も欲望の虜になってしまう。何でもほどほどに、と非常に曖昧な考え方になっている。はっきりしたことは誰も言えないんですね。

 

食は飢えぬほど、というのは非常に立派な考え方かもしれませんね。家も雨が漏らぬ程度。立派なものを建てようとするから、欲望は限りなくなる。欲望が少しでも満たされると、そこに人は生きがいがあると思ってしまう。生きている以上、そうした欲望の虜になって暮らしてもしようがない、それが現代人の普通の暮らしになっている。欲望というものと、どういうふうにしてうまく付き合っていくか。人間の歴史への問いかもしれませんね

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