ベストセラー経済学者が描く、これならあり得る資本主義終焉シナリオ

資本主義を攻撃するなら、ターゲットはここだ
ヤニス・バルファキス プロフィール

水道料金の支払いを2ヵ月遅らせるだけでいい

エスメラルダはイヴァと同じように大手金融機関で働いていたが、世界金融危機が起きる直前に退職していた。そのため、業界の裏の事情を熟知していた。クラウドショーターズは彼女の専門知識を活かして、中央銀行の目論見を外科的かつスタイリッシュに阻んだ。ほとんどの人が理解していないことを、彼らは理解していた。なにもかも民営化したことから、資本主義は「金融ゲリラ攻撃」に極めて脆弱になっていた。特にエスメラルダが理解していたのは、単純な債権からCDOをつくり出す、「証券化」と呼ばれる不遜で皮肉なプロセスが、武力によらない草の根革命にとって絶好の攻撃対象だったことだ。

電気やガスなどの公益事業会社が民営化された結果、各家庭や中小企業に送られた電話や水道、電気料金の請求書はすべて、民間企業に支払う債務となった。だがそれらの民間企業は当の債務を、とっくの昔にどこかの金融機関に転売していた。それでは、その金融機関は具体的になにを購入したのか。市井の人たちが生み出す将来の収入の流れを回収する権利である。そして、その権利を使って彼らはなにをしたのか。その収入源を小さく切り刻んでいろいろなCDOに紛れ込ませ、さらに別の─それこそ世界中の!─金融機関に売却したのだ。

 

エスメラルダとその仲間には、CDOの中身を特定する優れた技術的能力があった。苦心してソフトウエアを書き上げると、各CDOのどの債務がどの世帯の債務なのか、その請求書や債務の支払期限はいつなのか、誰に対する債務なのか、特定のCDOを誰がその時々で保有していたのかを正確に突き止めた。その膨大なデータベースをもとに、エスメラルダたちは各世帯に連絡を取った。彼らのほとんどが激しい怒りを爆発させた。大手投資銀行のやり口にも。投資銀行家が待ち望んでいる救済措置に対しても。そこでエスメラルダたちは、費用がかからず、攻撃対象を絞った短期の支払い遅延ストライキに突入するよう、怒れる世帯に呼びかけた。エスメラルダはその運動を、クラウドショーティング(大衆による短期支払い遅延運動)と呼んだ。

クラウドショーターズが市民に呼びかけた檄文は、シンプルだった。実際、エスメラルダがヨークシャー地方の住民に呼びかけた初期の檄文は、プラーク(銘板)となってロンドンの国会議事堂を飾っている。

私たちに力を貸してほしい。あなたがその日の食事をテーブルに載せるのにも苦労しているというのに、そのあなたの法外な水道料金の請求書で利益を得ている者どもを、引きずり下ろすために。水道料金の支払いを2ヵ月間、遅らせるだけでいい。遅延料金の心配はいらない。クラウドファンディングで集めて私たちが補てんする。団結すれば揺るがず、分裂すれば倒れる!

同様のプラークはワシントンDCの議会議事堂のエントランスも、アテネのシンタグマ広場に面した国会議事堂も飾っている。

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