流行という言葉が示すように、世の中の潮流にいち早く反応するファッションの世界において、トレンドとしても語られるジェンダーフリーについて、関係者はどのように捉えているのでしょうか。現場に深く携わる立場から、beautiful peopleデザイナーの熊切秀典さんに話を伺いました。

●お話を伺ったのは…
熊切秀典(くまきり・ひでのり)
beautiful peopleデザイナー。1974年、神奈川県生まれ。文化服装学院アパレル技術科卒業。コム デ ギャルソンでパタンナーとして経験を積み、2004年(有)entertainmentを設立。06年ブランド〈beautiful people〉をスタート。17年よりパリコレクションに参加。20年に第38回毎日ファッション大賞を受賞。

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誰も窮屈な思いをしないことが大切。
技術に裏打ちされた垣根を越える服作り

beautiful peopleのコンセプト“大人も子供も、男性も女性も満たす服”は、自分にしかできない作家性のあるブランドを作りたいという思いから。2006年当時はまだジェンダーフリーやダイバーシティという言葉もあまり使われていない時代でした。学生時代から村上春樹さんの本を愛読していて、『風の歌を聴け』に出てくるフィッツジェラルドの言葉にインスピレーションを受けました。

「優れた知性とは二つの対立する概念を同時に抱きながら、その機能を充分に発揮していくことができる、そういったものである」。これが服において実現可能なのか、パタンナーの技術を生かしてトライしてみたいと思ったんです。そこで、優れた知性を優れた技術に、二つの対立する概念を大人と子供に置き換えてみた。一つの言葉から始まって、結果的に一着のガーメントが大人と子供、男女の垣根を越えるものになっていったんです。

2006年のブランドスタート当初から作り続けているライダースジャケットは、120cmから200cmまで9つのサイズで展開されている。男性も女性も、大人も子供も、自分の好きなサイズ感を選んで着て欲しいというブランドのコンセプトを象徴する一着。

服作りはコム デ ギャルソンで学びました。入社したきっかけも実は村上春樹さん(笑)。『日出る国の工場』という本の中の「コム・デ・ギャルソン工場」に興味を持って。メンズのパタンナーとして勉強したことが今のベースになっています。紳士服の仕立てというのは長く着られることを前提に考えられていて、サイズの調整やお直しもしやすい。その時の繋がりがあったから、紳士服の縫製工場でレディースを作ることもできたんです。

最初のコレクションで「大人のための子供服」として発表したライダースジャケットは思いのほか反響が大きくて、ブランドがなんとか進み始めた。120~140cmから始めて、こだわった作りなら男性にも受け入れられるのではないかと思って、3年後ぐらいから200cmまで作るようになりました。