米では「宮崎監督や細田監督」が出にくい理由

この「シンプルで簡潔なもの」を求めるアメリカのアニメーションは、アメリカのアニメ界で宮崎監督や細田監督のような存在が出にくい大きな理由ではないかと田村さんは言う。

――私の思うアメリカと日本のアニメ作品の大きな違いは、日本アニメは「宮崎駿作品、細田守作品」など監督名で知られるのに対し、海外アニメは「ディズニー、ピクサー作品」などスタジオ名で知られるということです。もちろん、ジブリという名はひとつ通っているものですが、「スタジオジブリ作品」と聞くと、宮崎監督か故・高畑勲監督という個人を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

私なりにその理由を考察してみると、大きな理由の一つとして、アメリカのアニメ映画では「物語の分かりやすさ」が日本のアニメより重要視されていることにあると思います。物語を誰にでもわかりやすくするために、ディズニーやピクサーでは「ブレイントラスト」という会議があります。この会議では、他の作品を担当した監督や脚本家が集まり、作品のストーリーやメッセージが見る人に伝わるのか、そもそも観客の感情を引き出す物語か、平凡な話になっていないか、など正直な意見をぶつけて徹底的に話し合い、その結果監督の元のアイデアが大幅に変わることも多くあるといいます。

そして監督は、その意見を受け止めてアイデアを練り直しつつ、自分のビジョンも守っていく、という作業が必要になります。そのため、いくら監督とはいえ、アメリカのアニメではその監督の個性が前面に出ることは日本に比べて少なくなるのだと考えます。また、アメリカのスタジオでは監督が作品ごとに変わることが多くあります。そのため、一人の監督がスタジオのブランドを確立することがないのです。どちらが正解、というのではもちろんありません。実際に、私はどちらの作品も大好きで、常にインスピレーションをもらっていますし、それぞれの強みがあると感じます。アメリカのスタジオのシステムの良いところは、沢山の人が監督になるチャンスがあり、それにより常に違った視点から物語が作られることだと思います。

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最近は特に様々な文化がモチーフになった作品が増えてきているので、これからもアメリカのアニメーション業界で多様性が広がっていくことが楽しみです。一方で、日本のアニメ映画に見られるそれぞれの監督が創造する世界はとても魅力的ですが、しかし同時に、制作チームやスタジオにも、アニメーションファン以外からももっとスポットライトが当たって欲しいという気持ちも否めません。私は1アーティストとして、純粋にあのような素晴らしい作品を生み出している「チーム」に興味がありますし、もっと制作現場についても知りたいと思います。

また、知名度だけではありません。やはり、日本のアニメ業界の労働環境の問題は改善されて欲しいと常に願っています。最近では、日本の人材が中国のアニメ産業に流れ始めているということも話題になりました。これは、今環境が改善されなければ、近い将来日本はもうアニメ大国ではないかもしれない、ということではないかと思い焦りを感じてしまいます。アニメ人気が高まると同時に、「アーティストでは食べていけない」というような古い概念も今変わっていかなければならないと思います。

大学を卒業して、コマ撮りスタジオに就職

さて、冒頭に伝えた学生アカデミー賞受賞作の発表は、2021年10月21日だという。今後は田村さん自身はどのように活動していくつもりなのだろうか。

――現在、ストップモーションアニメーション(コマ撮り)のスタジオ、LAIKAでコンセプトアーティストをしています。LAIKA作品は日本では限られた映画館でしか上映されていなかったため留学前は知らなかったのですが、アニメーションを学ぶ中でLAIKA作品に出会い、手作りの人形と背景セットを駆使して作られるアニメーションの面白さにすぐにファンになりました。それ以来LAIKAは夢のスタジオの一つだったため、大学3年生の時にLAIKAの方から電話をもらい、インターンシップに選ばれたと伝えられた時は信じられませんでした。

実はそれが2020年の夏の予定だったのですが、コロナで中止になってしまったんです。大学でずっと休みなく作業してようやく掴んだチャンスだったため、最初のショックは大きかったです。しかし、ここで諦めなければ必ず来年もチャンスが来ると信じて、大学四年生でも作品作りに没頭しました。その結果、今年またインターンとして呼んでもらうことができ、来月からは正社員として働き始めることになりました!

スタジオLAIKA作品『コララインとボタンの魔女』に使われた人形の前で 写真提供/田村鞠果

ピクサーにも、現在活躍している日本人がいる。田村さんがアメリカのアニメスタジオで活躍するのも、遠くない未来のことになりそうだ。学生アカデミー賞の結果も祈りつつ、その活躍を楽しみにしたい。