西浦博教授が考える「ワクチン接種が進む日本」でこれから先に見込まれる“展開”

明るい未来を切り開くために

今後の未来像は

予防接種という行為は、接種者自身はもちろんのこと、それ以外の方の感染機会を減らすことに繋がる。そのため、そのような間接的な防御が人口内で積み重なり、流行自体を防ぐ効果が得られたものを集団免疫効果と呼ぶ。そして、流行排除のための閾値について、従来株の場合、予防接種率が60%超程度ではないかと過去の記事で私も言及してきた。

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実際に、イスラエルではロックダウン下で2回目接種が完了した者の割合が40%を超えたところで新規感染者数が減少傾向に転じたことから、国内外含めて予防接種に大きな期待が広がったのである。

残念ながら、上記の見通しは楽観的すぎた。それはどうしてなのか。加えて、現時点までの科学的な知見から今後の未来像をどのように見込んでいるのか。簡単ではあるが、本稿で皆さんと共有したい。

 

変異株出現とワクチン効果が見通しを変えた

既に雑誌『数学セミナー』9月号で簡単な数式いくつかを使って解説したが、2021年8月現在に日本で流行を起こしているデルタ株は以下の2つの特徴を有する。

(1)感染性が高い(再生産数が高い)
(2)予防接種の効果が従来株より低い

いずれの要素も集団免疫閾値に直接的に影響を与える。特に、前回の記事でお伝えした通り、(1)に関して言えば、ウイルスの感染性を表す指標の「基本再生産数」は、デルタ株では5以上の可能性が高く、それは他の感染症で言えば風疹相当くらい高いものである。

風疹相当という観点で考えれば、同室で向かい合って近距離で食事すると危ない、というどころか、同室を一定時間以上共有することで伝播が成立する可能性が十分ある。

この感染性を持つウイルスに対して、不要不急の外出や移動、イベントの自粛、リモートワークなど、主に「非特異的対策」と言われるものだけで防ごうとしている現在の困難な状況については皆さんご存知の通りである。

加えて、予防接種に関しても(1)と(2)の影響のために、少なくとも現在の希望者の予防接種で得られる集団免疫だけでは、パッタリと伝播が止むような予防を期待できない蓋然性が高いことがこれまでにわかった(ただし、後述するように、もちろん予防接種率が高くなると感染頻度は極端に低くなると期待される)。

また、デルタ株に対する予防接種効果が従来株よりも低いことに関して、そのメカニズムの仮説を含めて少しずつ理解されるようになった。

しかし、今後ずっとデルタ株だけが蔓延するわけではなく、新たな変異株が免疫から逃れる機構を獲得していく可能性は高い。また、発生確率が十分高いかは定かではないが今後も感染性がより高い株が生まれる可能性も残されている。

こういった抗原性や感染性の進化をリアルタイムで捕捉しつつ政策が練られたことは科学的にも過去に経験はなく、未だその速度は十分にわかっていない。ただ、少なくとも予防接種と非特異的対策のそれぞれで、国際協調を行うことは必要だったと強く感じさせられている。世界で流行対策に関する足並みを揃えられなかったことの帰結を肌で感じさせられているのが現状なのかも知れない。

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