転がるDNA、回るDNA、歩くDNA

「オリガミ」の上で分子を操る
藤崎 慎吾 プロフィール

体内を巡回する「究極のワクチン」

前回、触れましたが、DNAオリガミは複雑な形をした板のような構造物や、それらを立体的に組み合わせた構造物をつくることができます。また上述した通り、DNAでつくられたロボットや機械のプラットフォームにもなります。

この技術を使って、遠藤先生は最終的にどのようなナノマシンをつくりたいと考えているのでしょう。

「それこそ究極のワクチンみたいなものを、つくりたいですね」と遠藤さんは言います。「血中に入れておくと、ふだんは何も刺激せずに体内を巡回している。外部から入ってくるものを、常に監視しているんです。そしてウイルスなどの異物が入ってきたのを検知したら、それに対応したタンパク質などをつくって、マシンの表面に提示します。ちょうどRNA(リボ核酸)ワクチンの『スパイクタンパク質』*のようなものです。それが免疫系を刺激して、適切な防御反応を引き起こすようにする」

*スパイクタンパク質は、ウイルスの表面に並んでいる突起状のタンパク質。RNAワクチンを接種すると、このタンパク質だけが体内でつくられ、結果的にウイルスに対する抗体が生成される。

現在のワクチンは、対象となる病気ごとに異なっています。そして新しい病気が発生すれば、それに対応するワクチンを開発しなければなりません。新型コロナウイルスでは1年ほどでしたが、何年もかかる場合もあります。また同じウイルスでも変異してワクチンがきかなくなれば、開発し直す必要も出てきます。

しかし遠藤先生が考えるようなナノマシンなら、あらかじめ複数の病気に対応できるよう「プログラム」することも可能です。その範囲を広げれば、変異株や、全く未知の病原体にも、ある程度、対処できるかもしれません。夢は広がります。

上は遠藤さんらがDNAオリガミでつくった「人工細胞微小カプセル」のイメージ図。油の中に浮いている小さな水滴を、六角形の板で隙間なく覆っている。このカプセルにはDNAの塩基配列を変えることで、様々な機能を持たせることができる。一種の「プログラム」が可能で、遠藤さんが構想するようなナノマシンのボディとなるかもしれない。下のAFM画像は、この研究とは異なるが、DNAオリガミによる三角形や六角形の板を隙間なく並べたところ figure, photo by Masahiro Takinoue and Msayuki Endo 拡大画像は、 上の図はこちら下の図はこちら

ただ気になるのは、やっぱり「安全性」です。RNAワクチンも、将来的な悪影響を恐れて、接種を控える人はいます。DNAを材料にした「ワクチン」も、同じように危険視される可能性はあるでしょう。

「(ナノマシンが)大きな塊になったりすると、余計な免疫反応を起こす可能性はあります」と遠藤さん。「ただ体の中に入れると、DNA自体はどんどん分解されるので、最終的に害はなくなるでしょう。血中に打ったとしても、タンパク質などで周りが覆われていなければ、そのうち分解されてしまいます。もちろん危険性はゼロではありませんが、限りなくゼロに近いと思います」

将来、DNAオリガミは、伝統的な折り紙と同様、知的な遊びやアートになっていくかもしれません。一方で医療革命を引き起こす可能性もあります。期待を胸にしつつ、注意しながら、技術の発展を見守っていきたいと思います。

第3回〈DNA遊園地の妖精 2051年のナノワールド物語〉はこちらから

このコンテンツは、科研費 学術変革領域研究(A) 分子サイバネティクスhttps://molcyber.org)における取り組みの一環として、ジャーナリストが研究者に長期取材する「ジャーナリスト・イン・レジデンス(JIR)」の支援を受けています。

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