転がるDNA、回るDNA、歩くDNA

「オリガミ」の上で分子を操る
藤崎 慎吾 プロフィール

千鳥足で歩く「DNAウォーカー」

動くDNAオリガミの中でも手がこんでいて、しかも私たちの目をひきやすいのは「DNAウォーカー」でしょう。つまり歩くDNAです。歩くといっても、私たちが2本の足で歩くやりかたとは、かなり様子が異なっています。

地に足がついておらず、熱運動の嵐も吹き荒れているナノの世界でDNAを歩かせるには、まず「足場」が必要です。これをDNAオリガミでつくります。どんな足場をつくって、どう歩かせるかには様々な手法があります。ここでは遠藤さんの研究を例として見ていきましょう。

少し前で、DNAオリガミには座標がある、という話をしました。この座標を利用して、遠藤さんは長方形をしたDNAオリガミの板に約100nmの真っ直ぐな「トラック」をつくりました。といっても、ならして道をつけたわけではなく、一本鎖の短いDNAを一定間隔で17本、並べたのです。これらが足場です。

このトラックを歩くDNAウォーカーもまた一本鎖で、足場のDNAとは相補的な塩基配列になっています。なのでスタート地点にある最初の足場に出会うと、お互いにくっついて二本鎖のDNAになります。何もしなければ、そのまま動きません。

しかしウォーカーと足場の一部には、特別な塩基配列が目印として仕込んであります。そして溶液中には、その目印を見つけると、足場側のDNAから、その特別な配列部分を切り取ってしまう「ニッキング酵素」が加えられています。ウォーカーと足場が一本鎖の時には働かないのですが、二本鎖になると働く酵素なのです。

一部を切り取られた最初の足場は、そのぶん短くなります。その結果、ウォーカーは前より不安定な状態に置かれます。完全な二本鎖の時でも、一種のブラウン運動でゆらゆら揺れているわけですが、その揺れがもっと大きくなってしまいます。

そこでウォーカーは最初の足場から、より長い(まだ切り取られていない)2番目の足場に移ります。しかし、そこで二本鎖を形成したとたん、また酵素が働いて足場が短くなってしまいます。そこでウォーカーは3番目の足場へ……という具合に次々と移っていき、最終的には17番目の足場までたどり着く、というわけです。

これは酔っぱらいが嵐の日に、街路樹の並ぶ道を千鳥足で歩いていく様子を連想させます。突風でよろめき、近くにあった樹の枝につかまったとたん、その枝が折れてしまいます。おっとっと……と前のめりにふらふら歩いて、何とか次の樹の枝につかまります。するとまた、その枝が折れてしまい……という具合に進んでいって、いつの間にか最後の樹までたどりつくという感じです。似たような経験、ありませんか?

【図・写真】DNAウォーカーが歩く原理とその様子 DNAウォーカーが歩く原理(左上)。足場の一本鎖DNAが酵素で切断されることにより、次々と隣の足場へ移っていく。足場はDNAオリガミの板上に17本、真っ直ぐ並べられている(左下)。AFM画像では、対角線上の白い点が動いていくように見える(右)。トラックの両側に並んでいる白点は、ウォーカーの位置を特定するための目印。動画は「https://youtu.be/i4sRrJQEuFQ」で見られる figure, photo by Msayuki Endo  拡大画像はこちら

DNAウォーカーが酔っぱらいとちがうのは、足場から足場へ移動するのに1分半ほどの時間がかかることです。つまり100nmのトラックを歩き切るのに、単純計算で24分ほどかかるわけです。その様子をAFMで観察した遠藤さんによると、ほとんどの時間は同じ場所で、ゆらゆらと揺れているだけだそうです。これにニッキング酵素が働くのに必要な時間も加えると、全体としては3時間ほどかかります。

DNAオリガミ上のトラックは、真っ直ぐである必要はありません。遠藤さんは3ヵ所に分岐点があって、ゴールが4ヵ所に分かれているトラックもつくりました。また分岐点にはDNAの「ゲート」も設けて、開閉できるようにしました。ウォーカーは開いたゲートの方へ進むので、任意のゴールへと導くことができます。ある意味でウォーカーの動きを、コントロールできるわけです。この様子もAFMで観察できました。

ここで説明したウォーカーは1本足でしたが、3本足の「DNAスパイダー」と呼ばれるウォーカーをつくった研究者もいます。また同じように複数の足をもつウォーカーと、回転するDNAとを組み合わせて、歩いてくるウォーカーに小さな金の粒子を渡していくという複雑な「機械」がつくられた例もあります。

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