転がるDNA、回るDNA、歩くDNA

「オリガミ」の上で分子を操る
藤崎 慎吾 プロフィール

巻きかたを変えて「旗」を上げる

DNAの「らせん」は、通常は右巻きになっています。これは「B型のDNA」とも呼ばれます。しかし塩基配列が「CGCGCG……」とくり返されていた場合、溶液の塩分濃度によっては、右巻きから左巻きになることがあります。これは「Z型のDNA」と呼ばれます。

つまり塩分濃度を変えれば、右巻きだったDNAが、いったん真っ直ぐな梯子状になって、さらに左へと巻いていくわけです。もしナノの世界でも重力が支配的であれば、この時、DNAは容器の底を右から左へと転がっていくことでしょう。

しかし実際は、そのままAFMで見ていても、右巻きから左巻きになったかはわかりません。B型からZ型への変化を観察しようと思ったら、何か工夫が必要です。

遠藤さんはDNAオリガミで真ん中に長方形の穴がある板をつくり、その穴の左右に「軸受け」のような構造を2対、取りつけました。そして、この軸受けに直線状のDNAを2本はめこみました。板の穴だけを見れば「目」のような形になっています。

2本のうち、上のDNAは一部が「CG」のくり返し配列になっています。下のDNAは全部がランダムな配列です。それぞれのDNAには、短いDNAを2本並べた「旗」をつけました。これもDNAオリガミの手法です。

この状態で溶液の塩分濃度を変えていきます。すると、ある時点で「CG」配列になっている部分が左巻きとなり、上のDNAの旗が、逆向きに引っくり返るという仕掛けです。一方で下のDNAの旗は、濃度を変えても動かないはずです。

実際にAFMで観察してみたところ、濃度の変化で上の旗がひっくり返った一方、下の旗はそのままである様子が、見事にとらえられました。この仕掛けは一種の「モーター」として使える可能性もあると、遠藤さんは考えています。

【図・写真】DNAがB型からZ型に変わるのを観察する仕掛けDNAがB型からZ型に変わるのを観察する仕掛け。DNAオリガミでつくった四角い枠に、やはりDNAオリガミでつくった2種類の「旗」を取りつける(左上)。上の旗の赤い部分には「CG」のくり返し配列がある。下の旗は全てランダムな配列でできている。これが最初の状態で、AFMで見ると、どちらの旗も下向きになっている(左下)。溶液の塩分濃度を変えると、CG配列部分がZ型になって、上の旗だけが反転すると予想される(右上)。実際にAFMで見ると、予想通り上の旗だけが反転していた(右下)。動画は「https://youtu.be/7m9HuNWZRC0」で見られる  figure, photo by Msayuki Endo  拡大画像はこちら

光で回したり、開閉させたりする

DNAは水平方向に回すこともできます。わかりやすい構造で言えば、DNAオリガミでつくった板の上に軸を立てて、その軸に回転させるDNAをくっつければいいわけです。ちょうどヘリコプターの「ローター」のようになります。このままでもブラウン運動と同じ原因で、ローターは不規則に回転します。

遠藤さんは、このような構造物に光で形を変える特殊なDNAを組みこみました。すると紫外光を当てたり、可視光を当てたりすることで、ローターの向きを(上から見て)縦にしたり横にしたり、自由に切り替えられるようになりました。

【図・写真】紫外光、可視光を当てて、向きを変えられるDNAオリガミ紫外光を当てたり、可視光を当てたりすることで、ローター(オレンジ色で示した短い棒状のDNA)の向きを変えられるDNAオリガミ。ローターの両端と、土台になっている板の4ヵ所に、光で形を変えるDNAがつけられている。AFMの写真では、ローター(約20nm)が白っぽい棒になって見えている。動画は「https://youtu.be/wFA-5aMenPU」で見られる  figure, photo by Msayuki Endo  拡大画像はこちら

似たような手法で、遠藤さんはDNAの「ハサミ」もつくっています。長短、何本かのDNAが束ねられた2本のアームを「X」のような形で組み合わせ、それが閉じたり開いたりするようにしたのです。このハサミの「ネジ」に当たる部分も、DNAでできています。ハサミの開閉は、溶液の塩分濃度を変えたり、紫外光や可視光を当てることで切り替えられます。

さらに遠藤さんは、このハサミを四つ組み合わせて「#」のような形もつくりました。すると、それぞれのハサミは開いた「X」から閉じた「=」に近い状態まで変化するので、全体としては正方形だった井桁が、つぶれて菱形のようになったりします。AFMで実際にそうなっているのを見ると、何かロボットの部品に使えそうだなと思えてきます。

【図・写真】紫外光と可視光の切り替えによる開閉と、ハサミを四つ組み合わせた場合上の図とAFM画像は、DNAオリガミの「ハサミ」が紫外光と可視光の切り替えで開閉する様子。下の図とAFM画像は、ハサミを四つ組み合わせた井桁が、同様な光の切り替えで変形する様子。動画は「https://youtu.be/TpunHMuFd-E」で見られる figure, photo by Msayuki Endo  拡大画像はこちら

実際、遠藤さんと共同研究をしたドイツの研究者は、ハサミと同じ仕組みで、両腕を広げたり閉じたりするヒト形のDNAオリガミをつくっています。まさにロボットのようですが、今のところはデモンストレーションのレベルで、すぐに何かの役に立つというわけではありません。しかし未来を垣間見せられたような気分にはなります。

【図・写真】ヒト形DNAオリガミの模式図と電子顕微鏡写真独ミュンヘン工科大学のヘンドリック・デイツ教授らによってつくられたヒト形DNAオリガミの模式図と電子顕微鏡写真。身長は約150nm。三つの部品が自動的に「合体」し、溶液の塩分濃度を変えることで、両腕が開いたり閉じたりする figure, photo by H. Dietz / TUM 拡大画像はこちら

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