「自分自身で行動するように育てられた」藤井聡太と稀代の名経営者の初対談

考えて、考えて、考える(1)
14歳2ヵ月で最年少棋士となって以来、次々と最年少記録を塗り替え、驚異的な勝率で勝ち続ける19歳の強さの源とは。
「死ぬまで努力」の稀代の名経営者・丹羽宇一郎氏との対話から見えてきた異次元の天才の頭の中身――藤井聡太、初の対談本『考えて、考えて、考える』から抜粋して一部をご紹介。

勝つ楽しさ、負ける悔しさを知って強くなる

丹羽    藤井さんが新記録をどんどん樹立し、将棋界のスターともいえる存在にまでなった、その原動力は何だと思いますか?

藤井    やはり、「将棋が好き」ということだと思います。幼い頃からずっと好きで自然にやってきた感じです。将棋を指したくないとか、駒に触れたくないなどと思ったことはないです。

撮影/岡村啓嗣

丹羽    なぜ将棋をそこまで好きになったんですか。もちろん理由はいろいろあると思うけど、ご自分で1つだけ挙げるとしたら、何でしょう。負けなかったからですか?

藤井    5歳のときに、駒の表面に動かし方が矢印で書かれている入門者用の盤駒セット「スタディ将棋」(くもん出版)を、祖母が持ってきてくれました。将棋のルールを覚えて最初に指した相手も、祖母でした。祖母はルールも覚束ないくらいの初心者だったので、すぐに勝てるようになって、それでどんどん将棋が面白くなりました。勝つ楽しさをスタート段階で味わえたのが、モチベーションにつながってよかったのかもしれません。

 

丹羽    人から褒められてモチベーションが上がることはありますか? 例えば僕は中学生の頃、作文を褒められて、「俺、ひょっとしたら作家になれるんじゃないかな」と思いましたよ(笑)。それは今でもよく覚えていますね。藤井さんは勝った喜びと負けた悔しさと、どちらが大きくて、どちらのほうが印象に残るタイプですか?

藤井    自分の場合は、褒められたこととか嬉しかったことよりも、負けて悔しかったことのほうが鮮明に記憶に残っています。

丹羽    じゃあ、もっともっと負けていれば、もっと強くなっているかな。

藤井    いや、でもやはり負けてばかりでは……。

丹羽    だめだよね。

藤井    そうですね。だんだん悔しさを感じなくなってしまうような気がします。

丹羽    そうですよね。たまに負けるから悔しいんだよね。

藤井    強い相手と対戦してばかりで、勝てる可能性が低いと、一生懸命考えることがどうしても難しくなってくるかと思います。「勝つ」という目標があるから、より考えられるといった面もあるのかなと思いますので、勝って嬉しい気持ちと、負けて悔しい気持ち、両方が必要で、そのバランスが大切なのかな、と

丹羽    勝ってばかりでは有頂天になってしまうだろうし、負けることは、強くなるうえで非常に大切ですね。

藤井    はい。だから、強くなるためにいちばん理想的なのは、自分より少し強い相手、「頑張れば勝てるかもしれない」相手と戦うことでしょうか

丹羽    小中学生だった頃の藤井さんにとっては、奨励会(日本将棋連盟の棋士養成機関「新進棋士奨励会」)には、そういう相手がたくさんいたんじゃないですか?

藤井    確かに奨励会は、段級が上の相手との対戦もあるので、厳しいですが勉強になる機会は多かったです。奨励会という成長の過程で負けることは、一つの糧になるかなと思います。

ただプロの世界ですと、けっこう「負けが負けを呼ぶ」といわれていて、負けが込んでしまうと、それに慣れてしまうということがあるのでよくないんです。

丹羽    プロスポーツ選手も、ある年齢に達すると本人も周りも、もうこれで引退かなと思うそうだけど、それは体力の問題というより、僕は気力、精神力の問題だと思いますよ。気概をなくしてしまった途端に、どっと負けが込むことはよくあります。「負けてたまるか」と、絶対に悔しがらなきゃいけない。負けても平然としていたら、進歩がなくなるんですよね

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