鏡に映したような“反素粒子”
反素粒子とはどういうものなのか。続いての舞台は、剣道場です。剣道の面をつけると、みんな同じように見えるというのもポイントです。では、私たちがなぜこの宇宙に存在しているのかという謎を解く鍵を見ていきましょう。
ペアで生まれた素粒子と反素粒子。その動き方は鏡に映したように対称的です。対称的とはどういうことかというと、例えば、素粒子が右利きなら、反素粒子は左利き。素粒子が右へ進むと、反素粒子は左へ進みます。素粒子が右回転していると、反素粒子は左回転します。

そして、素粒子がプラスの電気を帯びているとすると、反素粒子は、マイナスです。このように、見た目はまったくそっくりでも、動き方が鏡に映したようになっている。これが、素粒子と反素粒子なのです。
ところが、反素粒子は、私たちの身の回りでは、まったく見当たりません。いったいどこへ行ってしまったのか。これは科学者が長い間、謎として考え続けてきた問題なのです。
素粒子だけが生き残った謎
同時に出来たはずの素粒子と反素粒子を考えるのに、大きな鍵となるのが、素粒子と反素粒子の間の、1つの性質です。反素粒子と素粒子は一瞬でも出会うと、ものすごいエネルギーを出して消えてしまうのです。「対消滅」と呼ばれる性質です。
ですが、ここで疑問が生じます。宇宙の始まりに、双子のようにペアでできた素粒子と反素粒子は、宇宙の中に同じ数だけあったはずです。ならば、すべてが消えてなくなってもおかしくはない。
そうなると、この宇宙には、星も銀河もそして私たちも存在しないことになります。ではなぜ今、宇宙には数え切れないほどの星があり、私たちがいるのでしょうか?
最先端の研究では、なぜかほんの少しだけ素粒子が生き残ったと考えられています。その確率は10億個に1個くらい。素粒子と反素粒子の数に差ができてしまったのです。その差が生まれたのは宇宙が始まった直後、ビッグバンでのことでした。
そもそも、素粒子だけが生き残るためには、素粒子と反素粒子の数に違いが生まれなければいけません。基本的には、鏡に映したようにそっくりな素粒子と反素粒子ですが、世界中の研究者が調べていったところ、実は、その振る舞いに少しだけ違いがあることが分かりました。
例えればこんなことです。竹刀を持った時、角度がほんの少し違っていたり、足を踏み出した時、ほんの少しずれたりするのと同じようなことです。

拡大画像表示
つまり、素粒子と反素粒子は、鏡に映ったようにぴったり同じ動きをすると考えられていましたが実は少しだけ違いがある。これは物理学者を驚かせる大きな発見でした。「CP対称性の破れ」と呼ばれる現象です。
そして「ほんの少しの違い」なので、実は10億個に1個くらいが反素粒子から素粒子に変わることがあり、 ほんの少しだけ素粒子が多くなったのです。そして、対消滅で素粒子と反素粒子が消えた後も、このごく一部の素粒子だけが生き残ることができたのだと考えられるのです。