# 立ち読み # 医療 # 緩和ケア

安楽死に賛成する前に知ってほしい「あの時死ななくて良かった」の声

死を唯一の選択肢にしてはならない
大津 秀一 プロフィール

「なぜこの状況で生きる必要があるのか」という苦悩

ただ全体を通してみると、もちろん経過中にそのような気持ちに陥ることは多くの方に認められるものの、がんの患者さんが全て死を希求するわけではありません。

がんは比較的機能が保たれる病気で、自分のことが自分でできなくなるのは、例えば麻痺などを起こす別の病態などがなければ、結構遅くなってからです。深刻な機能障害は「なぜこの状況で生きる必要があるのか」という苦悩を生みがちです。

私の経験では、これはあくまで自分自身の感覚に過ぎませんが、強く死を希求し、またそれが薄らいだりしないことは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病の患者さんにしばしばあると感じています。それらの病気は、意識がはっきりしているうちから、運動機能などが障害され、生活を人の手に委ねることになるからです。

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またがんの場合には、もし最終末期になって、身の置きどころのない苦しみなどが出現したとしても、鎮静という手段があるのは先にお伝えした通りです。まずは意識を通常のまま保ちながら、痛みや苦しみを和らげる―これが本道です。

ただそれが難しくなった場合は、そして余命もある程度限られている(短い)と考えられる場合は、眠らせて苦痛を緩和する手段を希望に応じて使用します。それが鎮静です。そのため、亡くなる前にのたうち回って苦しむ―ということは、適切な時期に鎮静を行うことで、だいぶ和らげることができるようになってきました。

もちろん鎮静が効きづらい事例などでは、専門家が知識をフル活用する必要があります。ただこの鎮静があることで、人生の最期に身の置きどころのない苦しみから免れることができるのです。というわけで、実は鎮静という手段があるのですが、安楽死に比べると、あまり知られていません。そのため、苦痛に対して何も手段がないと思っている方もいます。

緩和ケアのこともあまり知らない人さえいます。そうすると苦痛緩和は安楽死しかないように思ってしまうのかもしれませんね。実際には、鎮静や、緩和ケアなどが存在します。もちろん緩和ケアの専門家はこれらに熟達しています。とかく人の最期はのたうち回って悲惨なものになる、とイメージで捉えている方もいます。

しかしそれは多くの場合、事実ではありません。緩和ケアの技術も進歩しています。とにかく、鎮静を適切に行ってくれる医師に、特にがん末期などの場合はかかることが大切です。

なお、一つ重要な情報なので書き添えておきますが、安楽死は意図的に医師が患者を死に至らしめるように致死的な薬剤を投与することなので、鎮静とは全く違う行為です。それは知っておくと良いと思います。

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