デルタ株に効く? 安全性は? 「新型コロナのmRNAワクチン」…研究の第一人者に聞いてようやくわかった“本当の評価”

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mRNAワクチン実用化までの長い道のり

新型コロナウイルスの流行を受けて短期間で実用化されたmRNAワクチンですが、その研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品に使おうという研究がすでに始まっていました。

そして、mRNAをワクチンとして使うためのブレークスルーを成し遂げたのが、ビオンテック社のカタリン・カリコ博士と米ペンシルベニア大学教授のドリュー・ワイスマン博士です。この発見によってノーベル賞の有力な候補に挙げられています。

1980年代に考えられていたのは、「mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができる」ということでした。しかし、実際にmRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、細胞が死んでしまうことも分かっていました。多くの研究者はこのままでは薬として使うことは無理だと思っていたのです。

その常識を覆して、拒絶反応を起こさない方法を見つけ出したのがカリコ博士とワイスマン博士でした。mRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を、「化学修飾」といわれる化学構造の飾りが付いたものに変えて細胞に与えると炎症が起きないことを発見したのです。2005年のことでした。これによってmRNAを人の体に投与するめどが立ちました。

「ウリジン」(左)と「化学修飾されたウリジン」(右)/NHK提供
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この発表は世界中の研究者に大きなインパクトを与えましたが、当時、mRNAは非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのにお金がかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。

しかし、カリコ博士たちは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年、炎症を抑えるだけでなくタンパク質を大量に作る方法を見つけたのです。

「実験結果が出たとき、これまで夢みていた治療法、ワクチンやタンパク質治療薬、遺伝子治療などの可能性が開かれたと感じました」(ワイスマン博士)

その後、カリコ博士はドイツの製薬ベンチャーのビオンテック社に迎えられ、この技術を使ってインフルエンザ用の新ワクチンやがんに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。

ビオンテック社でカリコ博士(右)たちがmRNAワクチンの開発を続けた/画像提供:BioNTech

ビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにmRNAワクチンの開発に着手。アメリカの大手製薬会社ファイザー社と提携し、大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。こうしてわずか1年足らずで新型コロナウイルス用のmRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。

「学術界も小さなバイオテクノロジー企業も大企業もそれぞれがベストを尽くしました。今回はそれぞれが協力し合うことで、短期間でのワクチン開発が実現できたのです」(カリコ博士)

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