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校則を疑い続けた演出家・鴻上尚史が出会った「言葉の通じる先生」

工藤勇一校長との対談で見えたもの
ブラック校則にいじめ、過酷な労働環境に疲弊する教員たち……昨今、問題がさまざまに叫ばれる日本の学校教育。その改革の最前線に立つのが、定期テスト廃止など斬新な教育改革で話題を呼んだ前千代田区立麹町中学校長の工藤勇一さんだ。工藤さんの教育改革の本質は何なのか。日本の同調圧力の問題を考え続けてきた演出家の鴻上尚史さんが、工藤さんと学校教育を議論した現代新書の最新刊『学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか』より、鴻上さんによる「はじめに」を特別にお届けする。

「先生を信頼したかった」

僕は中学校の時から、ずっと「校則」に対して抗議を続けてきました。

あの当時は、「ブラック校則」という名前はまだありませんでしたが、どうして丸坊主にしなければいけないのか、どうして靴下の色は白しかダメなのか、どうして学校の帰り道に買い食いをしてはいけないのか、まったく納得できませんでした。

中学、高校と僕が理不尽な校則に対して抗議を続けた一番の理由は、「先生を信頼したかった」からです。

あの当時は、校則問題を先生に抗議している時のもやもやとした気持ちを、明確に言葉にすることはできませんでした。

また、もし言葉にできたとしても、10代の若僧にとって、こんな言葉は恥ずかしく、周りに知られるとかっこ悪いと感じて、口にしなかった可能性もあります。

けれど、今から思えば、ずっと抗議を続けたのは、先生を信頼したかったからだとはっきりと分かります。

授業を通じて、尊敬できる先生が生まれます。クラス担任の時もあるし、特定の教科のこともありました。

この先生の言葉は信用できる、こんな大人になりたいと思った時に、校則問題にぶつかります。

尊敬できる先生に「どうして、リボンの色は黒と茶だけで、幅が2センチと決まっているんですか?白はどうしてダメなんですか?」と聞いても、納得できる言葉は得られませんでした。

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教科の解説や人生のウンチクに対して、ほんとうに納得できる言葉を与えてくれた先生が、校則問題になると、いきなり理不尽になりました。「世の中にはルールがあるんだ」と真顔で言われた時は、「先生は世の中のルールがなぜあるか、その理由を考えろとおっしゃいませんでしたか」と混乱しました。その答えは、お茶を濁しているだけとしか思えなかったのです。

そんなはずはない、この先生は普段はとても論理的に物事を説明している、もっとちゃんとした根拠を教えて欲しいと、さらに言葉を続けると、最終的に出てくるのは、「中学生らしくない」という言葉でした。

この言葉はやがて「高校生らしくない」「〇〇中学の生徒らしくない」「〇〇高校の生徒にふさわしい服装と態度で」と続きました。

この言葉を聞くたびに、僕は先生に対する尊敬と親近感、そして信頼を失っていきました。

先生が、どんなに熱く理想を語っても、どんなに厳しく探究心の必要性を訴えても、どんなに真面目に「自分の頭で考えること」を説いても、校則問題に関しては、その正反対、真逆のことをしている。そして、そのことに疑問を持たず、問題にもしていない。

そう感じることは、当時の僕にとってほんとうに苦痛でした。

服装チェックをしている先生を見ながら、「中学生らしい」こととリボンの幅が2センチから3センチになることはどんな関係があるんだろう。リボンが白になると、どうして「中学生らしく」なくなるんだろう。黒と茶が中学生を表す色で、白は違うと本気で思っているんだろうか、と僕は失望しました。

先生が普段仰っている「真理を追究する心」とか「探究心」は、「中学生らしい」という言葉よりもはるかに弱いものなのですか、と聞きたかったのです。

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