オトコの病気新常識 著者:伊藤隼也
02 前立腺肥大症

 肥大が大きくなりすぎてTURPでの治療が困難と判断された患者に対しては、開腹手術が行われることもある。メスで下腹部を切開するわけだから、傷の大きさはHoLEPやTURPとは比較にならないほど大きいことはいうまでもない。

 TURPや開腹手術で患者にとって何よりつらいのは痛みだといわれる。TURPでさえも、術後数日間は鎮痛薬が必要だ。ところが、「HoLEPのレーザーならわずか0・4mmしか侵襲しないため、痛みが少ない」と設楽医師は胸を張る。

「導入当時は痛みが出るといわれていましたが、手術法が改善されたいまは、痛み止めの坐薬を使う患者さんは1割程度です」

 TURPの入院期間が平均7~10日間なのに対し、HoLEPは半分以下。健康保険が適用されるため、費用もほとんど変わらない。患者にとっていいことずくめなのだ。しかも、ラクになったのは患者だけではない。

「ホルミウムレーザーだと治療と同時に止血ができるため、出血がきわめて少ないのです。手術中の血圧や脈拍などの変化が少ないから、麻酔科医の心配も減ります。また、医師が慌てずに済むので、看護師の負担も軽くなる。この病気に関わるすべての人のストレスが軽減したといってもいいでしょう」(設楽医師)

HoPELなら尿漏れも短期間に抑えられる

 ところで、このHoLEPはどんなタイプの患者でも選択可能なのだろうか。
設楽医師は「議論はあるかもしれませんが」と前置きした上で、「大きさによらず、どんな肥大でも可能です」と断言する。

 HoLEPを受けると術後、一時的な尿もれを起こしやすいとの指摘もある。それでもレーザー照射の際、括約筋という排尿時に使う筋肉に影響を与えないよう、できるだけ括約筋から離して照射すれば、ほとんどの患者は2~3日で尿もれが解消するという。

 国内のHoLEPの症例数は約4000例(2008年)で、前立腺肥大症の治療の1割を占める。これまで、機器が高額(渕野辺総合病院にあるもので3200万円)、医師の技術が追いついていない、などの理由で普及しにくかったが、現在では年間100例以上行う病院も出てきている。HoLEPの普及にも力を入れる設楽医師は、手術の見学を希望する医師を積極的に受け入れ、全国各地を指導や講演に飛び回っている。

前立腺肥大症は薬だけでは完治は不可能

 症状が軽く、日常生活にとくに支障がない場合は、経過観察や薬物治療も選択肢の一つである。

 薬物治療では、括約筋の緊張を緩めるはたらきがあるα1受容体遮断薬や、肥大した前立腺を縮小させる抗男性ホルモン剤、ほかに植物製剤、漢方薬などが使われる。だが、これらは症状を抑える効果はあるものの、根本的な治療にはつながらないため、あくまで症状が軽い場合に限られる。

開腹手術
下腹部の恥骨の上や陰のうと肛門の間などを切開し、前立腺の肥大した部分を切除する方法。TURPやHoLEPが一般的になった現在では、あまり行われていない。

費用
平均的な入院の場合3割負担で15万円程度。高齢者(1割負担)で5万円程度。

括約筋
胃の幽門部(十二指腸につながる出口付近)や尿道、肛門などにある輪状の筋肉で、収縮して水道のバルブのようにその部位を閉じるはたらきがある。尿道括約筋は尿道の周囲にある筋肉で、排尿をコントロールしている。

α1受容体遮断薬
主に前立腺肥大による排尿困難の改善に使われる薬。前立腺にある平滑筋のはたらきを抑え、前立腺部の尿の抵抗を下げることで尿を出やすくする。タムスロシン(製品名ハルナール)やプラゾシン(製品名ミニプレス)など。ただし、前立腺炎の治療では保険が適用されない。

抗男性ホルモン剤
アリルエストレノール(製品名パーセリン)、クロルマジノン(製品名ルトラール、エフミンなど)など。前立腺肥大症は男性ホルモンのはたらきによって起こるといわれているため、これらの抗男性ホルモン剤で男性ホルモンの作用を抑え、前立腺を小さくする。

植物製剤
植物由来の成分が含まれている薬剤。前立腺肥大症の治療には、エビプロスタット(製品名エビプロスタット)、セルニチンポーレンエキス(製品名セルニルトン)などが使われる。

漢方薬
前立腺肥大症では、頻尿、残尿感などの症状を緩和させるために、八味(はりみ)地黄丸(じおうがん)、猪苓湯(ちょれいとう)などが使われる。