オリンピックの競技時間はアスリートファーストか

食べる時間で体が変わる時間栄養学

コロナ禍でのさまざまな困難のなか、東京2020オリンピックも終わりました。こんな状況でもアスリートたちの活躍は素晴らしく、熱い視線が注がれましたが、筆者は自分が研究する専門分野からの少し違った視点で観戦をしていました。

筆者が研究しているのは、体内時計を司る時計遺伝子のメカニズムです。食べる、運動する、休む、といった身体活動が、体のなかでどのような変化につながるのか、時間によって差があることがわかってきています。

講談社ブルーバックスから上梓した『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門』では、そのしくみを解説していますが、この本では触れられなかったスポーツ競技の時間栄養学について、少し紹介したいと思います。

オリンピックで勝てるのは、朝型か? 夜型か?

TOKYO2020のオリンピック競技のなかで、水泳の競技時間に注目してみましょう。

水泳は夕方に予選を、そして決勝を翌日の午前中に持ってきていましたね。北米のテレビの放映時間の関係でスケジュールが組まれているとも言われていますが、スポーツ選手は競技時間に合わせて体調管理をしていくことになります。

体内時計の観点からは、この水泳の競技スケジュールはどうなるでしょうか。一般的には、ヒトの体温リズムは夕方が高くなり、この時間帯の運動パフォーマンスは大きくなることが知られています。その点からは、夕方の予選では良いタイムが出やすくなることが考えられます。

ただ、予選という性質上、力を加減してのぞむ選手も多いので、結果には見えにくいところです。また、午前中の決勝では、なかなかパフォーマンスが上がりにくく、もともと朝型の体質の選手や、あるいは朝型に体調を整えてきた選手が有利なのではないかと予想されます。

ところで、朝型や夜型といった体質とは何でしょう。詳しくは拙著に書きましたが、「朝型」「夜型」その間の「中間型」には時計遺伝子がかかわっています。もともと決まっているとも言えますが、これは食生活などによって変わることもあります。

以下の図に示したのは、朝型、中間型、夜型の人を対象に、どの時間帯が一番、自転車漕ぎのパフォーマンスが発揮できるかを調べ研究結果です。

【グラフ】パフォーマンスFacer-Childs E and Brandstaetter R(Current Biology , 2015)より改変

B 朝型の人は、13~16時にピークがあり、朝の7時の段階でもかなりパフォーマンスを発揮できています。C 中間型の人のピーク時刻は、16~19時で、朝の7時でも朝型ほどではないにしても高めのパフォーマンスとなっています。

ところが、D 夜型の人に関してはグラフの形が他とは明らかに違います。朝のパフォーマンスが極端に悪く、ピーク時刻の19~22時まで徐々に上がっています。

オリンピックの水泳競技の話に戻ると、この研究データから、夜型の人は、予選では良い成績が出せても朝の決勝では良い成績が出せない可能性が考えられます。実際にオリンピックではどうだったのか、一人ずつ朝型か夜型か、と選手にきくことはできないのでわかりませんが、予選を勝ち抜く力があって、メダルを狙うのであれば、朝型や中間型の人に有利な競技スケジュールだといえます。

かといって、必ずしも朝型、夜型といった自分のタイプに合っていない試合では時間的には不利だということにはなりません。体内時計を本番に合わせていくような練習で、パフォーマンスも変えられる可能性は十分にあります。

実際にいくつかの研究から、本番の試合時間に合わせて練習時間を設定すると、本番で良い成績が出やすいことも知られています。体内時計を加味したトレーニング計画や本番への戦略は大きな意味があるでしょう。

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