東京五輪では、近年のオリンピックにないほどに「アスリートのメンタルヘルス」に注目が集まったのではないか。

その象徴的な存在が、アメリカ体操の「絶対女王」シモーネ・バイルズ選手の団体戦棄権表明だった。この棄権について、米国在住の精神科医・内田舞医師は「とても大きな意味がある」という。それはどういうことなのか。

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メンタルヘルスのカミングアウトが続く東京五輪

今回の東京五輪で、大きな動きを見せているのが、選手たちの「メンタルヘルス」の問題だ。途中棄権やメンタルヘルスの問題を訴える選手が続出している。

英国男子競泳選手のアダム・ピーティ選手は、今回の東京五輪でも100メートル男子平泳ぎと混合4×100メートルメドレーリレーで金メダル、4×100メートル男子メドレーリレーで銀メダルという素晴らしい成績に輝いた。しかし、今後メンタルヘルスを理由に休養に入ることを宣言した。彼は自身のTwitterでこう綴った。

「休養に入るのは、それだけずっと厳しい毎日だったからだ。過去7年間、平均すると休養は1年間で2週間程度。しかし、残念なことに、世の中には選手以上に選手のことをわかっていると思っている(勘違いしている)人がいる」
(8月2日アダム・ピーティ選手Twitter)
競泳競技で金メダルを2つ獲った英国のアダム・ピーティ選手もメンタルヘルスから休養に入るという。photo/Getty Images

ピーティ選手の決断を後押ししたのが、7月27日に女子体操の団体総合を途中棄権した米国体操界の絶対女王であるシモーネ・バイルズ選手だ。シモーネ選手は、団体総合を棄権する前日の7月26日に、自身のInstagramにこう心情を書き残していた。

今、決勝戦の準備をしているところです。ラクな日でもベストな日でもありませんでしたが、乗り越えました。時々、私は世界の重みを背負っているように感じる。それを払いのけて、そういったプレッシャーを感じないようにみせているけれど、時々、それがとてもつらく感じるときがある(ハハハ)
7月26日シモーネ・バイルズInstagramより

最後、ハハハと笑いで締めているが、実際には大きなプレッシャーがかかっていたに違いない。翌日、彼女は団体決勝の跳馬で思うような演技ができず、その後、棄権し、個人戦にも出ないことを決めた。「メンタルヘルスを守るため」の決断だった。

シモーネ選手のこの決断をチームメイトは笑顔で受け入れた。そして、このニュースを報道した米国メディアも世論もシモーネ選手の選択を支持した。「勇気ある決断を誇らしく思う」と著名人含めて多くの人たちがシモーネ選手のSNSに決断に賛同するコメントを送ったのだ。

絶対女王のシモーネ選手は団体戦で棄権し、チームの完全サポーターとして働く姿が映し出された。photo/Getty Images

結局、シモーネ選手棄権後も米国女子体操チームは素晴らしい結束力で、団体総合で銀メダルに輝いた。シモーネ選手は団体総合が終わった後の7月29日に、ハートの絵文字とともに、Twitterにこんな書き込みを残している。

「たくさんの愛とサポートが寄せられたことで、私自身が、自分のこれまでの功績や体操選手以上の存在であったのだと、気づくことができました。今までは、そう信じられなかった」
7月29日 シモーネ・バイルズ選手Twitter

少し気持ちが安定したシモーネ選手は、8月3日に女子種目別に出場し、平均台で見事に銅メダルを獲得した。競技後のインタビューで、「このメダルは今までのどのメダルよりも素晴らしい。他のメダルより大切にします」と語った。そして、銅メダルを獲った日の彼女のInstagramには世界中から、なんと142万人もの「いいね」が集まっている(8月4日現在)。

笑顔で種目別・平均台で銅メダルに輝いたシモーネ・バイルズ選手。今までのどのメダルよりも素晴らしいと語った。photo/Getty Images