炎に乗って再び極楽浄土へ…
「京都五山送り火」の醍醐味とは

京都ではマンション暮らし。7階の東向きゆえ、大文字山(如意ケ嶽)が見える。山が視界に入る部屋で暮らすのは人生で初めて。早く目覚めた朝は、部屋から日の出を拝む。自ずと手を合わせたくなる。東京では得られなかった不思議な感覚だ。

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京都は山々に囲まれた盆地である。豪邸に住まずとも、どこからか山を垣間見ることができる。そのたび、自然の中で生かされていると感じずにいられない。このことが私の人生観を大いに変えた。人間は地球に対してもっと謙虚に生きねば、と思わされるのである。

8月16日20時――。東の大文字山にチラっと赤い点が見えたかと思うと、次第に赤い点が75個連なり、くっきりと「大」の字が浮かびあがる(コロナ禍の昨年今年は6個)。暗闇の中の「大」の字は、なんともいえず愛おしい。我家からは炎がアルファベットの「K」に見えてしまうが、それは大文字山がうちからやや東北に位置するからだ。この大文字点火の様子は、鴨川のほとりや京都御苑(御所周辺の公園)など、低くても広々とした場所から、じっくり眺めることができる。

「妙」は松ケ崎の西山(万灯籠山)、「法」は松ケ崎の東山(大黒天山) 写真提供:京都五山送り火連合会

やがて、炎は西の山々へと移っていく。浮かぶのは、東北の松ケ崎で「妙法」の2文字、西賀茂に「船」の図、金閣寺近くに「大」の字、最後は嵯峨野鳥居本に「鳥居」の図である。計5箇所ゆえに「京都五山送り火」。これらをすべて網羅するなら、おそらく大学などのビルの上にあがるか、高層ホテルやマンションの部屋からでないと難しいだろう。だが、一部だったら、たとえば鴨川にかかる橋の上から、すぐ近くで見られたりする。

大切なことは、炎の点火が東から西に向かっていくことだ。西方には極楽浄土がある。冥土から私たちの日常へお迎えして約4日間、一緒に過ごしたご先祖さま(精霊、京都では「おしょうらいさん」と呼ぶ)は、あの炎に乗って再び極楽浄土に帰られる。私たちが炎を観ながら、その気配を感じ取れるのが、送り火の醍醐味なのだ。

私自身は、ほぼ毎年、マンションの部屋から一人静かに「大」の字を眺め、手を合わせている。両親の魂が帰っていくのを静かに感じるためだ。63歳で早逝した母に続いて7年後には父も旅立った。東京では毎年、ナスとキュウリを牛と馬に見立て、オガラを燃やし、両親をお盆の初日に迎え最終日に送っていたが、京都では、さらに「大」文字などの炎に乗って極楽浄土に帰ると言われれば、不思議と安心するのである。