「電子書籍の台頭による出版社没落論」はどこが間違っていたのか?

電子書籍の歴史を振り返る・後編
飯田 一史 プロフィール

――なるほど、投稿サイトが作品の流通や拡散機能(「読まれる」)を担い、出版社がウェブ上の人気作品(「評価される」)を書籍やマンガにして売る機能(「儲かる」)を担う分業が成立しているがゆえに、書き手は「書く」に集中できる。一方、KDPで有名になるにはクリエイターの負担が「書く」以外の部分で大きすぎた。

落合 この10年余りの変化という意味では、いろいろなかたちで作り手に直接的に働きかけてくる読者の存在も大きいですね。私は日本ペンクラブ会員でもあるので言いにくいんですが、「文壇の時代」ではなくなった。同業者同士が研磨し育てあう空間としての文壇は文壇で必要ですが、そうではない世界で、読み手と作家がいっしょになって成長してきていると感じます。

 

ガラケーからスマホになったが……

――2000年代後半に刊行されたケータイ小説に関する本を読むと「ケータイ小説は読者の反応を作家が即時反映して作品が書かれていく特殊な空間だ」みたいな言い方がされています。今や投稿サイトやマンガアプリではコメント欄やアクセス解析を活用して創作するのは当たり前ですが、2000年代までは奇異な現象だと思われていました。

落合 弊社では編集制作やエージェンシー業もしていますが、そちらではTL(ティーンズラブ)の書き手や投稿サイトデビューの作家とお仕事することが多いんですね。数年前までは電子書籍化作品に付くレビューはやや幼かった。ストーリーだけを見て自分に合う/合わないだけだったのが、最近ではレビューの内容も深くなっていて、作品の質もそれに合わせて変わってきている。とっかかりが新しいものだとしても、また別の成長・成熟がある。

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――投稿サイトの隆盛と比べると、「新潮ケータイ文庫」などがあったガラケー時代よりもスマホになってからのほうが出版社運営の小説関係のデジタルサービスは停滞してしまった印象があるのですが、なぜでしょうか?

落合 事情を知っている「新潮ケータイ文庫」に限って言うと、もともと2002年にリリースされて一時期会員3万人前後まで伸ばしたものの、会員型(連載)と都度課金型(電子書籍販売)を併せたサービスにリニューアルしたところ、キャリア に「リニューアル」とは認められなかったため会員を引き継げず、「新潮ケータイ文庫DX」として新たに立ち上げた。ここで会員が1万人前後まで減ったそうです。

さらにスマホが出てくると2013年に「yomyom pocket」という「電子雑誌」としてスマホ向けに小説を連載するサイトにリニューアルして月額500円に設定したものの、「新潮ケータイ文庫」ブランドを引き継げず、さらに当時の潮流だった「アプリ」ではなく「有料ウェブサイト」だった等々の理由で会員がほとんど集まらずに翌14年にはサービスが終了しています。

2000年代に好評を博した『いじわるペニス』のように最初から「デジタルで読む読者に向けての連載作品」ではなく、「小説新潮」「yom yom」の姉妹版として一般文芸的な作品を分割して連載するほうが多く、スマホユーザーが食いつかなかったこともあると思います。

――2013年にはcomicoとマンガボックスが登場し、14年にはLINEマンガで「連載」形式の配信が始まって紙・電子問わずコミックスの売上を伸ばすようになりましたから、小説もやりようによっては……と悔やまれるところです。

落合 2010年代以降、出版社も経済系やファッション系などでは記事メディアをうまく立ち上げられたけれども、文芸では自社でウェブメディアをうまく利用できた出版社はそれほどいませんでしたね。

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