西浦博教授が描く「私が最も恐れ、怯えているシナリオ」の“中身”

デルタ株はどれだけ危ないのか
西浦 博 プロフィール

米国CDCが7月末に発表したデルタ株のリスク評価結果によると、デルタ株の基本再生産数は5.0から9.5の間くらいであろうと考えられている。

これを基に水痘(基本再生産数は8.5くらいとされる)と近いだろうとCDCのワレンスキー所長が言われたことがニュースに取り上げられた(但し、水痘は明確に空気感染が頻発する感染症であり、5から9.5の範囲の中では下限に近いほうが尤もらしいので、水痘のたとえは誇張であった可能性は残っている)。

私は、北大の伊藤教授との共同研究を通じて、デルタ株の相対的な感染性が従来株の約2倍であると推定してきた。また、従来株の基本再生産数が1.5-3.5(特に良く参照される値が2.5)である。これらの事実を基にすると、ベストの推定だと、デルタ株の基本再生産数は5.0、高くても7.0くらいだと想定してきた。

CDCが上限を9.5くらいまで高く想定しているのは、本感染症ではスーパースプレッディングイベントが発生しやすいことなども加味してのことなのかもしれない。しかし、「過分散」と呼ばれる他感染者と異なる一部の感染者による異常に多くの2次感染が起こり得る特徴があることも関係しているものと推測される。

その上で、基本再生産数が2.5の感染症と仮に6.0まで上昇した感染症のそれぞれを止めるには、全くその条件や度合いが異なることをここで強調しておきたい。

図2をご覧いただきたい。第1波で8割接触削減を提言して行われた緊急事態宣言の事後評価の図である(Jung et al. 2021, doi: 10.1098/rsos.202169の計算より)。

 

対策前の実効再生産数は1.73と推定され、都の外出自粛要請等の対策期に実効再生産数が1を下回って0.82となり、緊急事態宣言を通じて0.59に下がった、と推定された。

当時、緊急事態宣言前に1を下回ったことをたくさんの方が指摘したが、既に皆さんが何度も波を経験されてわかる通り、緊急事態宣言は感染者数が相当数存在する中で実効再生産数を十分に1より下回った状態で一定期間を通じて維持できる、これまでで国内唯一の方法である。1を持続的に下回らせて新規感染者数を下げないと、流行が目に見えるレベルで減衰しない。

流行対策前の実効再生産数1.73は、「対策なし」の基本再生産数と受け取れるようなデフォルト値ではない。社会の中で既に三密条件での接触に気を付けている方が当時からおり、また、社会の中で十分に感染が広がっておらず異質性が高い環境下で伝播が起こった状態の値である。

その頃をベースラインにすると、実効再生産数の相対的減少は1-0.59/1.73=0.659と、65.9%程度の実効再生産数の減少が見られたことになる。他方、前述のとおり1.73がデフォルト値でないことを考慮して、基本再生産数2.5をベースラインにすると、基本再生産数を基にした再生産数の相対的減少は1-0.59/2.50=0.764と計算され、76.4%程度の減少が見られた、ということになる。感染に至るリスクのある接触は8割削減とまでは言わなくとも、7割5分程度は減っていたのかも知れない、とする結果である。

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