2001年9月11日、ニューヨークのワールド・トレード・センターのノースタワーとサウスタワーにハイジャックされた飛行機がそれぞれ突っ込むという信じがたいことが起きた。そのアメリカ同時多発テロから20年。あの日のことを忘れてはならないと、そのテロで犠牲になった杉山陽一さんの妻・晴美さんがご自身の著書『天に昇った命、地に舞い降りた命』の再編集と書下ろしで20年のことを伝えていく。

連載「あの日から20年」11回目は、9月11日に妊娠4カ月だった晴美さんが、ちょうどそれから半年後の「メモリアルデー」とされた2002年3月11日に3番目の男の子を出産した日の続きをお伝えする。前編では陽一さんとつけることが叶わなかった赤ちゃんの名前について。

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新しい命とともに帰ってきた夫の魂

あの事件を忘れかけ、何事もなかったかのように日々を送り始めた人々が、「やはり忘れてはいけないのだ」と、もう一度あの事件を振り返ったメモリアルデーの3月11日。その日に、お腹の子はあえてこの過酷な人間世界に飛び出てきた。

たくさんの人々の思いをいただき、無事に元気に生まれることができたから、名前は「想弥(そうや)」と名づけた。

そうして、わたしはある思いにとりつかれた。

2001年9月11日に突然肉体を奪われ、半年間行き場を失ってさまよい続けていた夫の魂が、三男誕生の瞬間、ここそとばかりに彼の体の中に飛び込んできた!

もちろん子供の体には子供の魂があるけれど、そのは実の親子。うまく融合し合い溶け合い……そうしていま、新しい命となって杉山陽一は、わたしたち家族のもとに戻り、第二の人生をスタートしたのではないか。案外、彼はそれをねらって遺体が発見されることを拒み、逃げ続けていたのでは?

2001年夏、最後になった陽一さんと子供たちのプール。ずっと行き場を失いながらも、待っていたのかもしれない… 写真提供/杉山晴美

遺体が確認され成仏させられたら、天に昇って行かなければならない。そんなことにならぬようにひとり逃げ続け、いまようやく新しい肉体の中に飛び込んで……彼はほっとしているはず……そんな思いにかられた。