「日本は同調圧力が凄い」というのは本当なのか?

国際比較から見えてくる日本人の真の姿
高野 陽太郎 プロフィール

なぜ「同調圧力」論が受けるのか?

このように、科学的な研究は、「日本人は同調しやすい」ことも、「同調圧力が強い」ことも、はっきりと否定しています。では、「日本は同調圧力が凄い」という議論がはやるのは、なぜなのでしょうか?

ひとつには、良心がとがめないからでしょう。「日本は外国に比べて、ここがこんなに素晴らしい」という議論をすると、「国粋主義っぽく」響くので、「リベラルな知識人」としては、どうしても良心が疼きます。しかし、「日本は同調圧力が凄い」という議論は、日本にたいする批判ですから、良心の疼きは感じなくてすみます。安心して議論ができるのです。

もっと根本的な理由は、この議論が、「日本人は集団主義的」という日本人論の伝統的な信念に立脚していることでしょう。日本人論は、長年にわたって、「集団主義的な日本人は、自分を犠牲にしてでも集団に同調する国民だ」と説きつづけてきました。おおかたの日本人にとって、この見方は、すでに確固とした信念になっています。

ですから、「日本は同調圧力が凄い」と言えば、だれもがすぐに同意してくれます。「証拠を示せ」などと言われる心配はありません。気持ちよく弁舌を振うことができるのです。

しかし、近年の科学的な研究は、「日本人は集団主義的」というこの信念も、事実ではないことを明らかにしています。日本人とアメリカ人を比較した何十もの国際比較研究が、「集団主義」という点では、日本人とアメリカ人のあいだに違いはないことを示しているのです『「日本人は集団主義的」という幻想』http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52478

「日本人は集団主義的」という信念の元をたどると、明治時代に日本を訪れた、パーシヴァル・ローエルという1人のアメリカ人に行きつきます。この人物は、1年ほど日本に滞在したのち、「日本人には個我がない」と論じる本を書きあげました(『極東の魂』)。この本には、ほかにも、「日本人は子どもの段階にとどまっている」とか、「日本人には天才も鈍才もおらず、みな中間だ」とか、その後の日本人論で繰りかえされることになる幾多の感想が記されています。「日本人は集団主義的」という信念のもとは、個人主義を誇りとするアメリカ人が、その個人主義を裏返して日本人に貼りつけた、負のイメージだったわけです(『日本人論の危険なあやまち』)

第二次世界大戦が終わると、アメリカの占領下で、アメリカの人類学者ルース・ベネディクトの著書『菊と刀』が出版され、「集団主義的な日本人」というイメージは、日本人のあいだにも広まって、すっかり定着しました。その『菊と刀』の出版からかぞえても、すでに70有余年。もうそろそろ、アメリカ人が日本人に貼りつけた「集団主義」というイメージからは、自由になっていい頃かもしれません。

 
【引用文献】
Asch, S. E. (1956) Studies of independence and conformity: I. A minority of
one against a unanimous majority. Psychological Monographs, 70 (9, Whole
No. 416).

ベネディクト, R. (長谷川松治訳 1948) 『菊と刀 ― 日本文化の型』 社会思想社
[Benedict, R. (1946) The chrysanthemum and the sword: Patterns of
Japanese culture.
Boston: Houghton Mifflin]

Frager, R. (1970) Conformity and anticonformity in Japan. Journal of
Personality and Social Psychology
, 15, 203-210.

ローエル, P.(川西瑛子訳 1977) 『極東の魂』 公論社 [Lowell, P. (1888)
The soul of the Far East. Boston: Houghton Mifflin]

三浦麻子・平石界・中西大輔・Andrea Ortolani (2020) 新型コロナウィルス感染禍
に対する態度の国際比較 ― 「自業自得」「自粛警察」は日本にユニークなのか 
日本社会心理学会第61回大会発表論文集 199頁

Smith, P.B., & Bond, M.H. (1993) Social psychology across cultures: Analysis
and perspectives.
London: Harvester Wheatsheaf.

高野陽太郎 (2017) 「日本人は集団主義的」という幻想 『現代ビジネス』
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52478

高野陽太郎 (2019) 『日本人論の危険なあやまち ― 文化ステレオタイプの誘惑と
』 ディスカバー携書

Takano, Y. & Sogon, S. (2008) Are Japanese more collectivistic than     
Americans?: Examining conformity in in-groups and the reference-group
effect. Journal of Cross-Cultural Psychology, 39, 237-250.

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