「日本は同調圧力が凄い」というのは本当なのか?

国際比較から見えてくる日本人の真の姿
高野 陽太郎 プロフィール

「自粛警察」は「同調圧力」の証拠か?

とはいえ、「自粛警察」があれだけ話題になったのですから、やはり「日本は同調圧力が凄い」と言っていいのではないでしょうか?

いや、そう単純に結論することはできません。「自粛警察」が話題になったという事実は、いろいろに解釈できるからです。

たとえば、日本では「ロックダウン」ができなかったからかもしれません。欧米の多くの国々では、政府が商店に休業を命じたり、市民に外出を禁じたりして、警察官に取り締まらせました。いわゆる「ロックダウン」です。一方、日本の政府には、それほどの強い権限はなかったので、ロックダウンはできませんでした。「だから、市民がたがいに自粛を要求するほかなかったのではないか」という解釈もできるのです。

それどころか、正反対の解釈だって可能です――「『自粛警察』という言葉までつくって、そろって『同調圧力』を非難するぐらいだから、日本人はよほど『同調圧力』を嫌っているにちがいない」という解釈です。

じっさい、日本では、企業の「系列」から学校の「制服」や「校則」にいたるまで、「日本人の集団主義」に由来するとみられた「同調圧力」は、しばしば非難の大合唱を浴びてきました。「日本は同調圧力が凄い」という議論も、「同調圧力」にたいする非難ですから、「日本人は『同調圧力』を嫌っている」ことの証拠だと解釈しても、あながち的外れではないわけです。

「日本は同調圧力が凄い」という説が正しいのかどうかを見きわめるためには、やはり、日本と外国をきちんと比較してみる必要があるのです。

 

ウェブ調査の結果は?

じつは、「同調圧力」については、日本と外国を比較した科学的な研究があります。その研究の結果はどうなっているのでしょうか?

大阪大学の三浦麻子教授と慶応大学の平石界教授のグループは、パンデミックが始まってから、コロナ禍に人びとがどう反応しているか、国際比較をするためにウェブ調査をおこないました(三浦麻子他, 2020)

この調査では、ウェブを通じて回答者に4つの意見を提示し、それに賛成か反対かを答えてもらいました。4つの意見のうち、「同調圧力」を表しているのは、次の2つです。ひとつは、「非常時には、他の人たちが政府の方針に従っているか、一人ひとりが見張るべきである」という意見。もう一つは、「非常時には、他の人たちを政府の方針に従わせるために、個々人の判断で行動を起こして良い」という意見。

それぞれの意見に同意するか、しないか、「7」から「1」までの数字で答えてもらいました。もし「日本は同調圧力が凄い」という説が正しいのなら、日本人の答えは「7」に近い大きな数字になるはずです。欧米人の答は「1」に近い小さな数字になるはずです。

では、じっさいの結果はどうだったのでしょうか?

2つの意見にたいする答えの平均値をとって比べてみると、図1のようになりました。予想とは正反対。日本人のほうが小さい数字になったのです。日本人とアメリカ人やイギリス人との差は、統計的に有意でした(つまり、この差が偶然に生じたという可能性は、ほとんどありませんでした)。この図は2回目の調査の結果ですが、1回目の調査でも、結果は同じでした。

図1 同調圧力の大きさ(ウェブ調査の結果)

「一人ひとりが見張るべきである」というような意見は、まさしく「自粛警察」の考えかたです。「アメリカ人とイギリス人はこの意見に同意する傾向が強かったのに、日本人はあまり同意しなかった」という結果だったのですから、「日本は同調圧力が凄い」という説を真っ向から否定していることになります。科学的な研究は、この説を支持していないのです。

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