国税は、銀行口座を洗い、内偵し、証拠を固めてある日突然やってくる。埼玉にあるデータセンターには、あらゆる税務情報が蓄積され、その情報力は警察以上。いったん狙われたら、もう逃げられない―。
第1部 懺悔告白 我が家にマルサがやってきた
六本木ヒルズD棟16階の自室のドアを開けたら、スーツ姿の男たちが部屋の中を動き回っていました。
それが、国税の査察官たちでした。
「磯貝清明さんですね」
そのうちの一人が捜査令状を突き付け、それから夜9時まで延々と捜索が続いたんです。僕は呆然と見ていることしかできませんでした。
査察官たちはPCデータのダウンロード担当、ある人は郵便物担当というように、手分けして作業していました。銀行通帳が何冊あるかも、あらかじめすべて調べられていたようで、
「〇〇銀行の通帳は見つかったか? なんで見つからねぇーんだッ。よく探せっ!」
と統括官が部下たちを怒鳴りつけていました。
国税最強の調査部門として恐れられる査察部、通称マルサ。その実際の調査・活動内容とはどんなものなのか。本誌は実際にマルサに踏み込まれた経験を持つ2人の人物にインタビューを行った。
最初に登場するのは磯貝清明氏(33歳)。産廃業の傍らFX(外国為替証拠金取引)を始め、一時は10億円以上もの利益を得たが、所得申告を怠り、マルサのターゲットとなった。六本木ヒルズにあった自宅マンションを急襲されたのは'08年10月9日の朝、8時である。
磯貝氏は激しく鳴らされるインターホンに異変を感じ、いったんは裏口からマンションを脱出したものの、鳴り続ける携帯電話に観念して部屋に戻ったところ、冒頭の光景に遭遇した。
やってきたマルサ軍団は統括官をトップに事件担当が2人、全部で16人でした。
家宅捜索では、書類や未開封の郵便物の中身、財布はもちろん、下着類や熟女系のエロ本まで、ありとあらゆるものを徹底的に調べられました。
家具備え付けの賃貸マンションですから、家具類をひっくりかえすことこそしませんでしたが、「ここは開きそうだな」と空調設備の中を覗いたり、壁や床をコンコン叩いて調べているんです。隠し金庫や、現金、通帳などを探していたんでしょうね。その間も、統括官はひっきりなしに携帯電話でどこかと連絡を取っていました。
鍵束を突き付けられて、「これ、どこの鍵?」とひとつひとつ説明を求められたりもしました。僕はいったん脱出したときに、マンションのラウンジにあったソファの隙間に通帳を一冊押し込んでおいたんですが、そのことを明かすとこっぴどく叱られました。
僕の70㎡の部屋は、隅から隅まで調べつくされて、押収が必要と判断されたものは段ボールに詰め込まれました。さらに、駐車場にあった愛車もチェック。トランクの下の予備タイヤまで引っ張り出して、なめるように調べていました。
「ほかになにか隠しているものはないの?」
と訊かれましたが、もう何から何まで調べつくされて、付け加えることはありませんでした。
当時、僕はFXの取引用に7つの口座を開いていましたが、マルサはこの日にその関係先全部に踏み込んでいます。そのうちのひとつは、当時、付き合っていた彼女の部屋でした。
午前中から始まった自宅の強制捜査が終わったのは、夜の9時頃でした。そこからタクシーに乗せられ、大手町にある東京国税局に連行されて、
「隠し事はしてないだろうな! 」
と担当査察官から散々絞られました。とても、ウソがつけるような雰囲気ではありませんでしたね。第一、相手はすでにカネの流れを調べあげているんだから、ウソなんかついたらヤブヘビです。
ようやく解放されたのは深夜1時過ぎでした。帰ろうとしたら、再び統括官から、「本当に嘘偽りないな。イエスかノーか?」と最後までダメを押されたのには参りました。