技は教え込まない
早川さんは指導者として「余分なことは一切せず、教えすぎないようにしてきた」と話す。技を見て学ぶ、再現する力がものをいうスケートは、先輩やライバルたちがやっていることを見て盗んで、自分のものにしていく。
「それは遊びの一環で、自転車やバイクの乗り方を教わるのと一緒なんです。技とかは教え込まない。僕が覚えたやり方は僕の時代のものだし。世界のトッププロがやってるのをYouTubeで百回見たほうがいいに決まってる。昔のノウハウの本よりも、今起きている現実のかっこいいものをみるスポーツなんです」
技のトレンドもどんどん変わっていく。それを、手取り足取り教えてしまうと、自分で見てイメージする力は養われない。イメージできるから体が動く。コーチは誤差をなくしていく作業を手伝えばいいだけなのだ。
筆者もスケートボードの中継を楽しんだひとりだ。
解説者は年若く、「すっげー」「これは、超ヤバい」とフランクに表現する。自由で、楽しく、「遊び」に近い感覚だった。
女子で金メダルと銅メダルを獲得した日本選手2人が、他の選手の競技中に「あらいぐまラスカル」の話に熱中していたことでも話題になった。他の競技なら、選手団の重鎮から「真面目にやれ」なんて叱られそうだ。「鍛錬」とか「我慢」といった言葉と無縁そうだし、油断すると根性論が顔を出す日本のスポーツシーンを変えてくれる存在になりそうだ。
アメリカ西海岸が発祥の地だというスケートボードは、オリンピックでは、湾曲面を複数組み合わせたコースで競う「パーク」と、街中を模したコースを滑る「ストリート」の2種目が実施される。
じゃあ、たらたらと練習するかと言えば、そうじゃない。例えば堀米は、練習で集中力を切らさないことで有名だ。
「他の子が集中できなくなっておしゃべりを始めても、雄斗は練習をやめません。できるまで、自分が何かしらの手応えを感じるまでやり切る。はなからコーチに何か言われるのを待つとか、そういう感覚は皆無ですから」(早川さん)。
堀米は、金メダリストになるべくしてなったのだと思える。
「好き」の破壊力を、これからも私たちに見せ続けてほしい。
早川さんは5日、パークで夏冬両五輪の舞台に立つ平野歩夢に付き添う。