2021.08.06

メイドカフェの「メイド」が悩む、時間外労働としての「SNS労働」

ツイッターが「お仕事」になってしまう
中村 香住 プロフィール

そうなると、メイドカフェの店員であるメイドは、アイドルなどと同じように、SNSを使って自分自身のパーソナリティを発信したり、客と交流したりする必要が出てくる。これは、SNSを用いたアイデンティティの管理・維持が労働と密接な関係をもっているということだ。英文学者の河野真太郎は、このことを「アイデンティティの労働」*1と呼んでいる。

河野がいう「アイデンティティの労働」とは、賃金が発生する労働時間ではない余暇時間にも、SNS を通じてコミュニケーション能力などの人格的能力を磨き、ネットワーキングし、そこで培われ維持管理されたアイデンティティを再び賃金労働に投入することが求められているという意味だ。

このような事象は一般に広くみられるが、メイドカフェでの労働の場合には、(SNS上のコミュニケーションそれ自体では)賃金は発生しないものの、こうしたSNSにおける活動自体が実際の「仕事」の一環としてとらえられている。

 

SNSに追い立てられる

では、メイドカフェ店員は仕事の一環としてSNS を運用するにあたって、 実際に何に気を配り、何に苦労しているのだろうか。『ガールズ・メディア・スタディーズ』では、インタビューデータをもとに、三つの論点を出したが、本稿ではその論点のうち一つを紹介したい。書籍では他の論点二つも論じているほか、実際のインタビューデータを文字起こしして掲載しているので、関心を持っていただけた場合はぜひご参照いただきたい。

インタビューデータでは、メイドカフェで働いている人や働いた経験がある人から、Twitterは結局時間外労働であることや、つねに「Twitterやらなきゃな」「更新しなきゃな」とSNSに追い立てられる感覚があることが語られた。これは、業務時間外にも、メイドとしてのアイデンティティを維持するために、無賃のSNS 労働に従事する必要があることを意味している。

この点について、エイミー・シールズ・ドブソン(Amy Shields Dobson)がPostfeminist Digital Cultures*2において提唱する、ポストフェミニズム状況()におけるメディアを通した「自己表象」(self-representation)の概念を参照して考えたい。

大まかに言えば、フェミニズムがある程度浸透したのちに、(実態はどうあれ)「フェミニズムは終わった(達成された)」「フェミニズムなんてもういらない」といった言説が充満するようになった社会状況のこと。そこでは、フェミニズムが求めてきた「ジェンダー平等」が達成されたということにされ、女性が「個人として」競争的な社会を生き抜いていくことが求められる傾向にある。

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