2021.08.01
# 半導体 # 投資

「米中半導体戦争」のカギを握る台湾TSMC、その「したたかな戦略」と日本への影響

小出 フィッシャー 美奈 プロフィール

このことを考えれば、米中対立の中でTSMCというたった一つの企業が、どれほど戦略的な意味を持つかが分かる。半導体はあらゆる電子機器の心臓部だ。仮に中国が台湾を制圧しTSMCの出荷が止まるような事態にでもなれば、世界中のスマホや自動車、戦闘機の生産にたちまち影響が出る。外交防衛の専門家でなくたって、台湾海峡の重要性が理解できる。

このところ日本も含めて各国が急に「半導体の自前調達」を謳い始めた。それは台湾ファウンドリー、中でもTSMCの有事リスクを意識しているためだ。

その危機の擬似体験をさせてくれたのが、今年初めからの深刻な半導体不足だ。

ロックダウン後の予想以上の需要回復、日本のルネサス那珂工場の火災、テキサスの異常寒波による電力不足、台湾の大規模旱魃による水不足など複数の条件が重なったものだが、半導体不足は特に車載用で深刻になり、世界で390万台分の生産が影響を受けるという推定(米コンサルティング会社AlixPartners)もある。車不足で、米国ではレンタカーも3割くらい値上がりした。

こうした状況を米国政府から見ると、売上では米国が世界の半分であっても、生産の8割以上がアジア(米半導体工業会データ)という現状では安心していられない。半導体支援520億ドル(約6兆円)を含む包括法案を6月に成立させ、国内生産を増やそうとやっきだ。

TSMCが米国の助成金付きでアリゾナ州に新工場を建設していることもその一環で、5段階くらいの増設を計画しているとの観測もある。サムソンも米国で新工場の用地選定を進めている。

 

板挟みでもしたたかなTSMCの立ち回り

一方、今の状況を中国側から見ると、最先端を行くTSMCは米国でも上場しており、台湾政府の他、ブラックロックやヴァンガードなどを始めとする米国資本に支配された西側企業だ。

中国ファウンドリーのSMICは以前は米国上場をしていたが、2019年にニューヨーク証券取引所での上場を廃止、今年には米国での店頭取引からも消えた。昨年は上海に上場し、中国政府系ファンドからの投資を受けるなど、資本上の色分けを鮮明にしている。

だが、SMICの微細化技術はTSMCに比べて何周回も遅れているし、そもそも半導体製造工程を見渡せば、回路を設計するソフトウェア、回路を書き込むためのシリコンウェハーやレジストなどの材料、露光装置をはじめとする製造・検査装置など、川上から川下まで日欧米の寡占企業がガッチリ市場を抑えている。サプライチェーンの首根っこを掴まれていて、西側企業の協力なしに先端品が作れないというのが、中国の根本的な弱みだ。

米国は、そのメッセージ(脅しと言うべきか?)を、通信機器大手ファーウェイ(華為)排除で強烈に中国に伝えた。

ファーウェイが「エンティティーリスト(安全保守上の輸出規制リスト)」に指定され、「米国由来の技術を含む装置やソフトウェア」が米国の許可なしに使えなくなったために、台湾のTSMCだけでなく中国のSMICですらファーウェイ向けの先端半導体を作れなくなってしまったのだ。競争力を失ったファーウェイの携帯シェアは、近ごろ急速に凋落している。

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