水谷隼選手と伊藤美誠選手が卓球混合ダブルスで金メダルをとった。卓球では日本に初めての金メダル。本当に素晴らしかった決勝戦の相手は強敵・中国。2ゲーム先取されてから3ゲーム連続で取り返し、さらに1ゲーム取られてからの最終ゲームというヒリヒリした流れ。最終ゲームでは、今までの接戦はなんだったのかという初回から連続8得点で中国を追い込む、見事な試合展開を見せた。7月25日に行われた準々決勝でも、ドイツ代表のパトリック・フランツィスカ&ペトリサ・ソルヤとの対戦では見事な大逆転劇を演じたふたり。まさに、真の強さを感じさせた混合ダブルスだった。その強さの秘密は一体どこにあるのだろうか。

2021年7月25日の準々決勝。逆転に次ぐ逆転を制したとき、思わず伊藤選手の目には涙が浮かんだ Photo by Getty Images
2021年7月26日の決勝戦では、今度は満面の笑みを!おめでとうございます! Photo by Getty Images

ジャーナリストの島沢優子さんは、日刊スポーツ新聞社時代から20数年にわたってスポーツの現場で取材を続けている。筑波大学4年時に全日本女子大学バスケットボール選手権で優勝した元アスリートでもある。

そんな島沢さんが2019年に刊行した『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』は、2年をかけ名選手・名将らを丹念に取材したものをまとめたもの。ノートを書くことで、選手たちの才能がいかに花開いていったか、指導者が選手を成長させたかをわかりやすく示してくれる。

特筆すべきは、それぞれのノート(中にはデジタルもあり)を、専門家の手を借りて脳科学的な視点からどう有益なのかを分析しているところだ。そしてその選手のひとりに、今回卓球の混合ダブルスで金メダルを獲った伊藤美誠選手もいる。

本書より、卓球の日本女子代表の伊藤美誠選手のノートについて一部抜粋して掲載した記事を再編成、改めてお届けする。

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いとう・みま 2000年、静岡県出身。スターツ所属。16年リオデジャネイロ五輪卓球女子団体で銅メダル獲得に貢献、五輪での卓球競技では史上最年少15歳でメダリストに。18年度全日本卓球選手権大会女子史上初2年連続3冠。2021年東京五輪では7月27日にシングルス3回戦、8月2日に団体戦1回戦が控える。

「日本から大魔王が舞い降りた」

18歳の高校生(当時)が、卓球王国と称される中国のメディアから「日本から大魔王が舞い降りた」と称された。スウェーデンオープン(2018年11月)女子シングルス。伊藤美誠(18=スターツ)は準々決勝で劉詩ブン(27)、準決勝で16年リオデジャネイロ五輪女王の丁寧(28)を、続く決勝では世界ランキング1位の朱雨玲(23)を4-0と圧倒し優勝を飾った。

18年5月に開催された世界選手権団体戦を制した中国の主力3選手を連続で破っての快挙である。卓越した技術とパワーを誇る中国勢は打つ球の回転量が膨大なため、彼らに勝つには回転量を増やすことが先決とされてきた。ところが、伊藤は相手の動きを読む力と一瞬のひらめきで、中国選手の壁をひらりと乗り越えて見せた。

伊藤の「魔力」を生み出した大きなツールは、松崎太佑コーチ(34)とともに紡いだ「師弟ノート」だろう(松崎コーチの「崎」は本来は立に可です)

伊藤は幼稚園年中組のとき、松崎が所属していた豊田町卓球スポーツ少年団(静岡県磐田市)に加入。小学4年くらいから同コーチと打ち合うようになった。

「松崎コーチは卓球オタクで、動画を見るのが大好きなんです(笑)。私の試合だけじゃなくて、男子のも女子のも、国内も海外もいろんな大会の動画を見ていました」

伊藤が明かすように、松崎は画像を見ながら、コーチングの参考になることや伊藤への指導のヒントをメモしていた。

対する伊藤は「小学生時代は自分のプレーができればそれで良かった」。だから、動画を見る習慣がまったくなかった。が、松崎から「見たかったら、見れば? みたいに、勝った試合は見て、負けた試合は見ないような流れになって」(伊藤)中学1年生から、ふたりで見る機会が増えた。

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負けた動画を見ることで得たもの

「勉強になるから見ろ」などと命じられたことはないすべてにわたって伊藤の意向を尊重してくれるなかで、松崎の影響を受けて取り組んだ数少ないことのひとつだった。見る動画は、主に次の対戦相手の試合が多かった。

二人でそれを見ながら、互いに思ったことをポンポン言葉にしていった。相手の弱点や警戒しなくてはいけない得意技。それに対して、どんな策を講じるか、どんな練習をして準備するか。ワンプレーやツープレーを見ただけで、どんどん情報がたまる。

「ヤバい、ヤバい。書かないと忘れちゃうよ」

松崎がノートを用意し、見開きの左ページにコーチが、右ページに伊藤が書くようにした。 「最初はコーチだけが書いていましたが、私も一緒に(動画を)見るようになって、なんとなく一緒に書くようになったんです。それぞれが感じたことをじゃんじゃん書いていった。相手がこうだから、これが通用するかも、とか。それだったら、こんな練習しようか?とか。練習メニューを組み立てる参考になった。大会のときには試合前にノートをみてもう一度頭に入れてから試合に入るようにした