2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ。ニューヨークにあるワールド・トレード・センター・ビルのノースタワーに8時46分、サウスタワーに9時3分、ハイジャックされた飛行機が突入し、日本人24名を含む3000人もの方が亡くなり、6000人もの人がけがを負った痛ましい事件。

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杉山晴美さんの夫の杉山陽一さんはサウスタワーにオフィスのある銀行に勤務しており、犠牲となってしまった。当時、3歳と1歳の子を抱え、お腹には赤ちゃんがいた晴美さん。20年前のことを決して忘れてはならないと、晴美さんの著書『天に昇った命、地に舞い降りた命』の再編集と書下ろしで伝える連載の8回目は、2002年2月晴美さんが書いた日記からお届けする。この頃晴美さんは妊娠9ヵ月。しかし陽一さんは行方不明のままだった。晴美さんは陽一さんへどんな決意を伝えたのだろうか。

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独白・2月の日記から

【2月5日】
悲しくて悲しくて、どうしようもないくらいつらい涙を流しながら、けれど心がどんどん洗われていく気がする。
そんなつらい涙が自分を高みへ連れて行ってくれるような……。
悲しい一方でどこか喜びというか、清々しい試練を受けているような……。
他人の痛みがわかる人間に一歩ずつ近づいているような、そんな心地よさを感じる。
どうして死んだ人は生き返らないの? なんていう子供のような幼稚な問いかけや、死んだ人間とどうにかすればもう一度くらい対話することができるのではないか……などという非現実的な空想を時々せずにはいられない。

普通の幸せな生活が一変してしまった 写真提供/杉山晴美

【2月6日】
心を豊かにしよう。
自分とは何か、どういう人間か、どう生きたいのか問い詰めておくことができていたら……その行為はけっして無駄にはならない。
その時答えが出なくてもいい、考えている時つらくてもいい。
少しでも自分に余裕があるうちに自分と向き合っておけば、自分を見失わずにすむ。何か重大な衝撃が自分に襲いかかって来てからでは、遅い場合があるかもしれない。

自分を見失ってしまうことが、どん底から這い上がり、立ち直ることへの時間を遅らせる、もしくは不可能にしてしまう。自分さえ持っていれば、どんなことが起きようと、しっかり自分の足で立てる。立っていられる。

【2月9日】
ひとつポジティブに考えられると、ずるずるっといろんなものが芋づる式に手に入ってくるよ。ひとつ自分の中に感謝できるものがみつかると、またひとつまたもうひとつ……。
あ、あれもある、これもある……あるあるある。わたしってけっこーいっぱいもってる! なんだけっこーラッキー、幸せ者だったんだーと、どんどん前向きになれるはず。自分の運命も愛せるはず。そうして、感謝の心に満たされる……そんな素敵な時間が待っているよ。

人は海より深く悲しみのどん底に突き落とされようと、天高くまで浮上することが必ずできる。深い深い悲しみに出会ったことこそ、ふつうなら行き着くことが難しい高みへ、一気に飛び上がることができるチャンスをもらったということ。
わたしって、いつからこーんなに強くなってたの? もともと、こんなではなかったはず……。自分でも気づかぬうちに、心が軟体化していた……軟体? そうまさにアメーバ。大きなショックがぶつかってきてもグニョーンと形を変え、無意味なものなら跳ね返し、意味のあるものなら飲み込んで、自らの身体をさらに大きくしてしまう。
形は変幻自在。でもそれを囲む枠は、決して揺らぐことのない確かな「自分」で覆われている。そんな強くてジョーブ、張りつめた糸でもなきゃ、パリンと割れちゃうガラスでもない。タフでしぶといココロをいつの間にか手に入れていた。

あーよかった……間に合って……。こんな目にあうとは夢にも思っていなかったけれど、どうか信じて……心ってやわらかーく、しなやかーに、のびやかーに、解放できるものなのだと。