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# パワハラ

被害者から加害者へ…部下へのパワハラで降格した営業部長の「古い価値観」

セクハラ、モラハラ、ジタハラ、パタハラ……。中年男性の人生を破滅に導く罠、それが「無自覚ハラスメント」だ。著書『捨てられる男たち』を出版したジャーナリストの奥田祥子氏が、「部下のために」熱血指導をしたあげく、パワハラで左遷の憂き目にあった中年男性を取材したことは〈【前編】「死ぬ気でがんばれよ」部下への熱血指導がパワハラ認定された営業部長の「悪夢」〉でもお伝えした。なぜ彼は、知らぬ間に道を踏み外してしまったのか? その原因を探る。

部下のためを思ってやったのに……

横川さんは部下へのパワハラが認定され、譴責の懲戒処分を受けて始末書を提出させられた。同時にラインを離れて部下のいない総務部所属の専任部長へと、実質的な降格人事が課せられた。20年の年初のことだ。パワハラ加害者への聞き取り、弁明の機会は十分だったのか、今となっては検証しようもない。

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「パワハラと認定された言動はどれも、自分が若い時、上司から受けたものばかり。厳しかったけれど、私のことを思って指導してくれていることがわかったから苦にならなかったし、逆にやる気が出た。自分が成長できたように、部下の成長を願って指導しただけなのに……。今の若手社員は、すっかり変わってしまったんですね……」

ささやくように語ると、どこを眺めるともなく、喫茶室の窓の外に目をやった。

この20年初夏のインタビューだけを切り取ると、横川さんは単に古い価値観に囚われた“無自覚パワハラ”の加害者ということになってしまうのかもしれない。だが、さかのぼること10年以上前から彼を継続的に取材してきた身としては、そう単純化して語ることは決してできない。

彼はパワハラの被害を受けたことをきっかけに問題意識を持ち、一時期は人事部でパワハラ対策に取り組んでいた側の人間だったのだ。そんな人物がどのような経緯で加害者に転じてしまったのか。「男社会」の価値観と、刻々と移りゆく職場、社会のありようとのせめぎ合いを重ねてきた横川さんのこれまでを振り返りながら、パワハラで窮地に追いやられた心理的、社会的要因を探ってみたい。

 

すでに「パワーハラスメント」という言葉は書籍のタイトルとして世に出てから数年経っていたものの、キャッチーな響きの和製英語は一部で流行語的な捉え方をされ、どれだけの人がその概念を正確に把握していたかは疑わしい、2010年のこと(厚生労働省がパワハラの定義を発表するのはこの2年後である)。

ある人材コンサルタント会社が東京都心で主催したパワハラをテーマにしたセミナーが、横川さんとの出会いの場だった。

どんな人たちがどのような目的で、当時はまだ珍しかったパワハラ・セミナーに参加しているのかを取材するのが狙いだったが、講師の話を聞いて理解しようと努めれば努めるほど、「指導」との境界線が曖昧なことが浮き彫りとなり、「パワハラ」という言葉が独り歩きしないかと、一抹の不安を覚えたのを鮮明に記憶している。

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