世界一周旅行の様子を綴ったベストセラーエッセイ『ブラを捨て旅に出よう』の著書で、旅作家の歩りえこさんによるFRaU web連載「世界94カ国で出会った男たち」(毎月2回更新)。

今回は、エジプトを訪れたときのエピソードを披露。小学生時代から苦手だったことに、世界一周旅行中も直面することになり、苦戦したという歩さん。エジプトでは一人の青年が助けてくれたのですが、まさかの出来事が……一体なにがあったのでしょうか?

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「1+1=2」が理解できなかった

世界94カ国を旅して、一番苦労したことは数字との闘いだった。小学1年生で初めて算数の授業を受けると、既にクラス全員が1+1=2であることを理解していたが、私だけがどうしても理解することができず、たし算ができないばかりか、そもそも数字という概念を理解することすら難しかった。

担任の先生から「どうしてこんな当たり前のことが理解できないの? 1+1=2が理解できないとこの先に進めないよ」と言われ、1カ月間毎日居残りをした。が、1カ月経っても一向に1+1を理解することはできなかった。

先生はついに諦めて、「もう理解しようとするのは辞めて、形で認識して暗記しなさい。1+1は2になるの。そういうものだから。分からなかったら暗記すれば大丈夫だから」私は仕方なくこう考えることにした。1は木の棒で2は白鳥の形。そういった覚え方で数字を形として捉えることにした。

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大人になっても数字という概念を理解するのは難しく、特にお金の計算や時間の感覚が上手く捉えられないことで失敗は多かった。約束の時間に間に合うには予めどれくらい前に起きて準備をし始めなければならないかがイマイチよくイメージできない。

だから絶対に遅れてはいけない用事がある時はその前に一つ自分の予定を入れるようにしたり、提出物や締め切りは3日前に予備日を設定して最終的に帳尻を合わせられるようにするなど、そんな工夫をしながら何とか生きてきた。

日本国内であればまだ数字や時間をイメージするための工夫はなんとかなったが、ディスカリキュリア(算数障害)がありながらいざ海外に出てみると、常に数字との闘いだった

時間の正確さなんてあったものではなく、電車やバスなどの交通機関や人との待ち合わせも全てが基本的に遅れがちなため、その度にまた時間という概念を脳内で再設定し直さなければならないため頭の中がぐちゃぐちゃになる。

そんな数字や時間との格闘だけでなく、不注意も多く、クレジットカードの紛失を短期間に繰り返したり、裁縫道具で取れたボタンを繕っていると、作業を開始して1分で針がどこにあるか分からなくなり、その捜索を1時間してやっと見つけた直後にまた針を紛失して、また1時間かけて針を捜索するという感じ……。

また、他人と適度な距離感を取るのが上手くできず、苦手な人とは必要以上に距離を取ろうとして遠ざけてしまったり、逆に初対面の人でも打ち解けたら周囲が驚くスピード感で猛烈に仲良くなりすぎてしまう。場の空気感を読むことも苦手なので、学校でも塾でも目立つ人に隠れて静かに目立たないように振る舞うのが通常モードとなっていた。

そして、付いたあだ名は『不思議ちゃん』。バイトを始めてもコピー機はすぐ壊すし、お茶を運んでる途中につまずいて偉い人にぶっ掛けるし、スプリンクラーで水撒きをしたらなぜか全身水浸し。そんな感じだから最短1日〜最長2カ月ですぐにクビになる。誰もが当たり前のようにできる簡単なことができず、生きづらい毎日だった

「ナイル川沿いのパリ」と呼ばれるカイロの名所「タハリール広場」。写真提供/歩りえこ