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宇宙は「どんな形」をしているのか?

現代科学の必須概念、「多様体」とは

 皆さんはふとしたとき、「自分はたまたま現代に生まれたから知っているけど、もし原始時代に生まれていたら“大地は球面である”“地面は丸い”なんて考えられただろうか? おそらく疑問にさえ思わなかったかもしれない。“感覚的に、平らな平面がずっと無限に多分続いている”と思ったかもしれない。そう考えると実は自分は原始人とそう変わらないのかも……現代に生まれてよかった…(汗)」などと秘かに自問してドキドキした経験はないでしょうか?

またさらに日常ではあまりないことですが、

「大地をまっすぐ進んで行くとやがて元の場所に戻ってくるように、ずっと平面だと思っていた大地が実は地球という球体の表面でした。

では1つ次元を上げて同様に考えた時、この宇宙はどうでしょうか? 身近に見れば宇宙は"たて・よこ・高さ”の3つの方向が取れる3次元空間に見えます。すると宇宙はこの3次元空間が無限に広がっている空間なのでしょうか? あるいはそうではなく、地球の時と同様にまっすぐ進めば元の場所に戻ってくるという形の空間である可能性はあるのでしょうか」

という質問をされたらどう答えますか?

こうした、空間に対する我々の根源的な疑問について細かく知るための、そして現代科学のほとんどの現場で必要となる概念として「多様体」というものがあります。中学、高校数学は平面や空間の上で繰り広げられ、それらを知っていることが必要なのと同じように、現代数学や現代物理の多くは多様体という一種の図形を舞台に繰り広げられ、多様体の理解が絶対に必須となると言います。

今回は「冒頭のような疑問を抱いてしまった人」や「専門書を読み出す前の読者」、そして「将来、専門書は読まないかもしれないけど大体の感じをわかりたいという読者」を対象に、分かりやすく直観的な目指して、多様体の最前線で研究を続ける小笠英志氏が上梓した新著多様体とは何か』からご紹介します。


宇宙空間は「無限に広い3次元空間」か?

大昔の原始人は自分のまわりの大地を見て、大地は無限に広い平面だと考えたかもしれません。ものごころがついたばかりの幼児もそう思っているかもしれません。ところが、我々の大地は球面(球面でよく近似できるもの)でした。

さて、我々の住んでいるこの宇宙について考えてみましょう。我々のまわりを見ると、「たて、よこ、高さで点の位置が決まる空間(一部)」とみなせます。

「たて、よこ、高さで点の位置が決まる空間」というのは、座標軸、x軸、y軸、z軸をとることができる空間で、まさに中学や高校数学で「空間」と呼んでいたものです。この「空間」を3次元空間と呼ぶことにします。x軸、y軸、z軸は無限に長く取れるものを考えています。

宇宙空間を考えるとして、我々個人個人のまわりを見てみましょう。

そこは3次元空間のxyz座標系を考えるときの原点のあたりとみなせそうです。xyz座標系をとったときの原点のあたりを、さしあたり、小さな3次元空間と呼びましょう。我々個人個人のまわりだけでなく、地球のまわりも小さな3次元空間とみなせそうです。

もう少し詳しく説明します。まずは球体をとります。中身は詰まっていますが、境界の球面はないものとします。これを開球体といいます。一方、境界のあるものは閉球体といいます(図1)。

【図】閉球体図1 閉球体

先に、小さな3次元空間と呼んだのは、開球体のことでした(あるいは、そうなのだ、とします。今のところ、小さい3次元空間の"端"とか"角"のあたりは開球体になるようにしたんだ、と思ってください)。

地球周辺で、どこでもいいので1点を見ましょう。するとその点のまわりは、その点を中心とした小さい開球体になっているとみなせますね。もっと広く、太陽系や銀河系、となりの銀河まで広げて考えても、そのような性質をもちそうです。すなわち、このような性質がありそうです。この銀河系で、どこでもいいので1点をとります。

するとその点のまわりは、その点を中心とした小さい開球体になっているとみなせそうです。大雑把にとなりの銀河くらいまで広げて考えても、そのあたりでどこか好きな点を1個とると、その場所のまわりは開球体とみなせそうです。

そうすると、宇宙全体が無限に広い3次元空間だと思う人がいるかもしれません。宇宙のどの点を考えても、次の性質がありそうです。その点のまわりは、その点を中心とした小さい開球体になっているとみなせます。

さらに、どの点からどのような曲線を伸ばしても"宇宙から飛び出ない"ような気がします。それが、自然であると思うでしょう。ならば、 宇宙全体が無限に広い3次元空間だろう、と考える人もいるでしょう。では、可能性は本当にそれだけでしょうか?  実は、他にもあります。

宇宙が、どの点を考えても、その点のまわりは、その点を中心とした小さい開球体になっていると仮定しましょう。さらに、どの点からどのような曲線を伸ばしても飛び出ないようなものだと仮定しましょう。このとき、無限に広い3次元空間以外に、たとえば以下で紹介するような解もありうるのです。

その説明の前に、より次元の低い例を説明します。上記の解というのは、そこからの類推で得たものともいえます。  

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