「権威のある男性」の解説は避けたかった

氷室冴子さんはコバルト文庫を中心に活躍し、1980年代から90年代にかけて女子中高生から絶大な支持を集めた作家である。『なんて素敵にジャパネスク』や『クララ白書』、『海がきこえる』などのヒットで知られているが、エッセイにもすぐれた仕事が多い。なかでも『いっぱしの女』はフェミニズムエッセイとして、今後読み直しが期待される一冊だ。

“新版”とタイトルにあるように、本書は単なる旧文庫の出し直しではない。装丁や解説が一新され、『52ヘルツのクジラたち』と題して、2021年本屋大賞を受賞した町田そのこさんが、愛にあふれた新解説を寄せている。

旧版の『いっぱしの女』では、男性の文芸評論家が巻末の文庫解説を手がけていた。その解説文は氷室さんの痛みを十分に汲みとっているとは言いがたく、今日の目から見れば、さまざまな意味で90年代当時の空気や価値観を背負い込んだものであった。

「時代状況を考えれば、かつての文庫が狙った方向性もわかります。ですが、いまこの本を復刊するのであれば、権威のある男性が本書の価値を解説するという構造は避けたかった。氷室さんと近い視界を共有しているであろう女性の小説家にお願いすることで、氷室さんが抱えていたものを捉えなおしたいと思いました」

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そして、氷室さんを好きな女性作家という条件のなかで、本屋大賞で脚光を浴びた町田そのこさんに解説を依頼する。

「『いっぱしの女』を〈今〉と接続させたいという気持ちが強くあり、町田さんのお力を借りることで、氷室さんの言葉をより多くの人に届けられたらと願っています」

逝去から10年以上が過ぎ、特に若年層読者との接点に乏しかった氷室冴子作品だが、近年その風向きにもやや変化が生まれている。2020年刊行の『さようならアルルカン/白い少女たち 氷室冴子初期作品集』(集英社)のような作品の復刻を含め、再評価の機運が高まりつつある。

その動きを後押ししているのが町田そのこさんや、『お探し物は図書室まで』で本屋大賞第2位を受賞した青山美智子さんら、氷室さんの小説を読んで作家を目指し、リスペクトを公言する女性小説家たちの活躍なのだ。