映像を通して、他者へのエンパシーを深めます。映画にはそんな作用があるのです。夏から秋にかけて公開予定の最新作に込められた、監督たちの意志あるメッセージ。

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『リトル・ガール』

自分の「性」を見出した少女
その姿を映画はありのまま映し出す

© AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real – 2020

7歳のサシャ。生まれたのは男性の体。だけど2歳の頃から、自分が本当は女性であることを知っていた。

『リトル・ガール』は、性別違和を抱えて生きる少女と、彼女を支える家族の闘いを映したドキュメンタリー。監督は、これまで同性愛者やトランスジェンダーの人々をテーマにした映画を数々手がけてきたセバスチャン・リフシッツ。彼は、トランスジェンダーの人々の多くが、幼少期からすでに性と身体の不一致を自覚していたことを知り、この映画を撮ろうと思いついたという。

© AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real – 2020

フランスの地方で家族と暮らすサシャは、家のなかでは「女の子」として過ごしている。だが一歩家の外に出れば、彼女は「男の子」として生活せざるを得ず、そのため友達もうまくつくれない。学校では、教師はサシャを「彼」と呼び続け、服装や髪型も男の子らしいものを選ぶよう強要する。理由は、周囲の子を混乱させないため。彼女が通うバレエ教室では男役しか与えてくれない。こうした周囲の偏見と無理解を前に、家族はサシャのために闘おうと決意する。

© AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real – 2020

ただし、映画は一家と世間との対立を直接的には画面に映さない。ここに登場するのは、サシャの絶対的な味方だけ。彼女がどんなふうに世間から迫害されているのかを見せ扇情的な映画にすることを、監督が望まなかったからだろう。実際、幼い子供の「性」をテーマにすることには多くの不安がついてまわる。そこでカメラは、センセーショナルなシーンを避け、家族がどんなふうにサシャを守るのか、プロの医師がどれほど慎重に彼女と対話を重ねるのかを見せていく。

改めて実感するのは、多くの人が、子どもが自分らしくいられる性別を自覚しているとはなかなか認められない、ということ。サシャはずっと自分は「男の子」じゃない、「女の子」だと主張していたが、両親も当初は本気にはしていなかったという。だが悩みながらもやがてその言葉を受け入れ、彼女を娘として育てると決める。

© AGAT FILMS & CIE – ARTE France – Final Cut For real – 2020

一方周囲の人々は、サシャが「女の子」であることを頑なに認めず、その存在を陰に追いやろうとする。だからこそカメラはサシャの姿をありのままに映し、光の下に招き入れる。彼女はたしかに今ここにいると証明するために。

性別違和を抱えた子供を、大人はどうやって幸福な未来へ導いたらよいのか。これはサシャの物語であると同時に、子どもを守る大人についての物語だ。

セバスチャン・リフシッツ監督
1968年、フランス生まれ。2000年に初長編を発表し、その後はドキュメンタリーとフィクションの両分野で活躍。13年、ショーガールとして活躍した伝説のトランスジェンダー女性の半生を追った『バンビ』を手がけ話題を呼ぶ。その他の作品に『思春期 彼女たちの選択』(19)など。

監督:セバスチャン・リフシッツ
撮影:ポール・ギローム
出演:サシャ(2020年/フランス/85分)
11月19日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開予定。